練馬区の訪問購入業者を書類送検、特商法の書面交付義務について
2025/12/15 契約法務, コンプライアンス, 広告法務, 特定商取引法

はじめに
静岡県浜松市の住宅で訪問買取をした際に、不備のある書面を交付したとして東京都練馬区の訪問購入業者が書類送検されていたことがわかりました。規定より文字が小さかったとのことです。
今回は特定商取引法の書面交付義務について見直していきます。
事案の概要
報道などによりますと、東京都練馬区の訪問購入事業者の会社役員の男1人と訪問購入員の男2人は今年1月頃、浜松市天竜区の住宅を訪問し、アクセサリー等を購入する際に法で定められた内容を記載していない契約書面を交付した疑いが持たれているといいます。
男らが天竜区の住宅街をうろついているところを地域の民生委員が怪しく思い警察に連絡し、警察が任意で事情聴取を行ったところ、記載すべき物品の特徴や個数が記載されていなかったり、クーリングオフの説明が規定よりも小さい文字で記載されていたりと書面に不備があったことが判明したとのことです。
男らは特定商取引法違反容疑で書類送検されました。
特定商取引法の書面交付義務
特定商取引法ではクーリングオフの対象となる取引類型として、(1)訪問販売、(2)電話勧誘販売、(3)訪問購入・預託等取引、(4)特定継続的役務提供、(5)連鎖販売取引、(6)業務提供誘引販売取引の6つの取引が規定されています。
これら6つの取引については契約をする際に、事業者は一定の事項を記載した書面を消費者に対して交付することが義務付けられています(特定商取引法4条等)。
交付すべき書面としては、まず契約書面が挙げられます。これは上記6取引類型すべてで必要となります。次に概要書面が求められるのは連鎖販売取引、特定継続的役務提供、業務提供誘引販売取引の3つです。そして、訪問販売、電話勧誘販売、訪問購入については申込書面の交付が義務付けられます。
訪問購入に関する書面の記載事項
書面交付義務がある場合の記載事項の一例として、訪問購入の場合には次の事項を記載する必要があります(58条の7、58条の8)。
(1)物品の種類、(2)物品の購入価格、(3)代金の支払時期と方法、(4)物品の引渡時期と方法、(5)契約の申し込みの撤回に関する事項、(6)物品の引渡の拒絶に関する事項、(7)事業者の氏名(名称)、住所、電話番号、法人の場合は代表者の氏名、(8)契約の申し込みまたは締結を担当した者の氏名、(9)契約の申し込みまたは締結の年月日、(10)物品名、(11)物品の特徴、(12)物品またはその付属品の商標、製造者、販売者、型式、(13)契約解除に関する定めがあるときはその内容、(14)その他特約があるときはその内容となっています。
これらの他に相手方への注意事項として、書面をよく読むべきことを赤枠の中に赤字で記載することが求められ、クーリングオフに関する事項と物品の引渡の拒絶に関する事項についても赤枠の中に赤字で記載する必要があるとされます。
また、文字の大きさについては8ポイント(官報の字の大きさ)以上であることが必要とされています。
書面の電磁的方法による提供
特定商取引法の令和3年改正によって、一定の要件のもと交付すべき書面をメールなどの電磁的方法によって提供することが認められています。デジタル社会における消費者の利益と事業者の便宜が趣旨とされています。
ただし、電磁的方法による提供を採用するにはかなり厳格な手続きが規定されており、まず事業者による説明、適合性確認、消費者の承諾、第三者に写しを送付することの意思確認、控え書面の交付などの手続きが必要とされています。
適合性確認とは、消費者が電磁的交付を受けることができる能力と環境を有することを事業者のウェブサイトなどに必要事項を入力させるなどの方法によって確認することを言います。そして、消費者の承諾を得た事業者は承諾を得たことを証する書面を消費者に交付します。
コメント
本件で東京都練馬区の訪問購入業者が相手方に交付していた書面には物品の特徴や個数などが記載されておらず、またクーリングオフの説明についても規定より小さい文字で記載されていたとされています。これが事実であった場合は、特定商取引法の書面交付義務違反となると言えるでしょう。
以上のように、特定商取引法では規制対象となる取引類型については一定の禁止事項と書面交付義務などが規定されており、違反した場合には罰則や行政処分が設けられています。
特に書面については記載事項だけでなく、記載の仕方、文字の大きさなども厳格に規定されています。
貴金属や廃品などの訪問買取を行っている場合は、これらの規定を今一度確認し、違反がないか書面に不備は無いかを見直しておくことが重要です。
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