公取委が「今治造船」の「ジャパンマリンユナイテッド」子会社化を承認、企業結合規制について
2025/11/27   商事法務, 戦略法務, コンプライアンス, 独禁法対応, 独占禁止法, 会社法, メーカー

はじめに

公正取引委員会が18日、造船最大手「今治造船」(愛媛県今治市)による「ジャパンマリンユナイテッド」(JMU、横浜市)の子会社化を承認していたことがわかりました。これにより同グループは世界第4位の規模となるとのことです。

今回は独禁法の企業結合規制について見直していきます。

 

事案の概要

報道などによりますと、今治造船がJMUの議決権の50%を超えて株式を取得することを計画し、令和7年10月22日、本件計画を公取委に届出たとされます。

本件で両社は9品目の船種・船型の商船を製造販売しており、また今治造船グループに属する「日立造船マリンエンジン」が大型船用エンジンを供給しているとのことです。各品目における両社の市場におけるシェアは約5~15%、日立造船マリンエンジンの大型専用エンジンのシェアも約20%に留まっているとされています。

今回の届出でJKUグループは日立造船の競争者から取得した秘密情報を日立造船に共有しないこと、また当該措置の履行状況を公取委に定期報告する旨の問題解消措置も申し出ていたとのことです。

 

企業結合規制とは

独禁法では、「一定の取引分野」における「競争を実質的に制限」することとなる企業結合を禁止しており、一定の要件に該当する企業結合を計画している場合は事前に公取委に届け出ることを義務付けています。対象となる行為は「株式取得」「事業の譲受け」「合併」「会社分割」「共同株式移転」「役員兼任」となっています(独禁法10条~16条)。

これに違反して企業結合が行われた場合、公取委は事業者に対し株式の全部または一部の処分や事業の一部譲渡その他違反行為に対して排除措置命令を出すことができます(17条の2)。なお、現時点で課徴金納付命令の対象にはなっていません。

 

事前届出が必要な場合

上記のように、独禁法では一定の規模の企業結合に対し事前届出義務を課しています。具体的には企業結合をしようとする会社のうち、いずれか1社に係る国内売上高の合計額が200億円を超え、かつ他の1社に係る国内売上高合計額が50億円を超える場合とされています。

この事前届出がなされた場合、30日間企業結合の実行が停止されます(10条8項)。その間に一次審査がなされ問題がなければその旨の通知が、より詳細な審査が必要と判断された場合には審査に必要な報告などが要請されます(同9項)。二次審査でも問題がないと判断された場合はその旨通知がなされます。

一方で、問題があると判断された場合は意見聴取を経て排除措置命令が出されることとなります。

 

競争の実質的制限とセーフハーバー基準

それでは、独禁法が規制する「一定の取引分野」における「競争の実質的制限」とはどのような場合を言うのでしょうか。一定の取引分野とは一般に「市場」を意味し、その範囲は商品・役務の範囲と地理的範囲の側面に別れます。そして、それらは原則として需要者から見た代替性の観点から画定されます。

また、競争の実質的制限とは市場における価格や品質、数量その他の条件等をある程度自由に左右できる状態、すなわち市場支配力を形成する状態を言うとされています。その判断にあたっては事業者のシェアや競争圧力、市場参入圧力など様々な要素を考慮して行われるとされます。

公取委のガイドラインによりますと、この企業結合規制には「セーフハーバー基準」が設けられています。これはその範囲内であれば独禁法上適法であると言える基準です。具体的には企業結合後のHHIが1500以下である場合、1500~2500でかつ増加分が250以下である場合、2500超でかつ増加分が150以下である場合となっています。HHIとは「ハーフィンダール・ハーシュマン・インデックス」の略で、市場における各事業者のシェアの2乗の合計を言います。シェアが大きい会社ほどHHIの増加分が大きくなります。

 

コメント

本件の結合では商船の製造販売という水平の市場と、日立造船からの大型船用エンジンの供給という垂直の市場に影響を及ぼしうる結合であったと言えます。しかし、公取委の審査では水平、垂直いずれの市場でもセーフハーバー基準の範囲内とされ、提示された問題解消措置によって一定の取引分野における競争を実質的に制限することにはならないと判断されました。

このように、一定の規模の会社が合併や株式取得などを行う場合は会社法上の手続き規制だけでなく、独禁法による規制も受けることになります。届出を行った場合、原則として1ヶ月間は手続きを進めることができなくなります。また、市場でのシェアによっては結合ができなくなることも有りえます。

手続的な要件だけでなく、市場への影響なども含めて慎重にそれぞれの法令に適合しているかを検討することが重要と考えられます。

 

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