被害者が「工藤会」に取り消し求め提訴、信託とは
2025/11/17 債権回収・与信管理, 訴訟対応, 民事訴訟法

はじめに
市民襲撃事件で殺人罪などに問われた特定危険指定暴力団「工藤会」(北九州市)のトップが複数の土地を親族に信託し、賠償逃れをしているとして被害者側が信託取り消しを求め提訴していたことがわかりました。
土地は少なくとも23筆に上るとのことです。今回は信託について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、工藤会が関与したとされる市民襲撃事件のうち、建設会社社長が射殺された事件について民事で同会トップに賠償を命じる判決が確定しているとされます。
しかし同会トップは2020年、北九州市内の土地すくなくとも23筆(計7068平方メートル)と自宅を親族2人に信託したため、所有財産の仮差し押さえができなくなっていたとのことです。
信託した時期は、一部の訴訟で同会トップの敗訴が濃厚となった頃だったとされ、被害者側は賠償逃れのために詐害信託をしたと判断して準備をしていたといいます。
被害者側は信託取り消しを求める提訴に先立ち、信託財産の処分禁止の仮処分を申立て、福岡地裁小倉支部は今年5月22日付で仮処分を出しています。
信託とは
信託とは、信頼できる者に自己の財産を移転し、管理・運用を託して、それによって生じた利益を自己または第三者に受け取らせるといった行為をいいます。
信託は「委託者」「受託者」「受益者」で構成されており、自己の財産を委託する者が委託者、それを受ける者が受託者、運用によって得た利益を受け取る者を受益者といいます。
信託をすると、その財産は受託者のものとなり、受託者は委託者の定めた目的に沿ってその財産を管理・運用することとなります。そのため形式上は委託者のものではなくなることから、債権者による差し押さえなどもできなくなります。
信託は一般的には信託銀行といった金融機関や信託会社が業務として行っていますが、それ以外の一般の個人も受託者となることは可能です。また、自己の財産について自分自身が受託者となることもできます。これを自己信託といいます。
信託の登記
土地や建物などの不動産を信託した場合、その旨の登記をすることとなります。この場合、委託者から受託者への移転の登記と信託登記を一括して申請することになります。
通常の所有権移転登記では、登録免許税は土地の課税価格に1000分の20を乗じたものとなりますが、信託の場合は移転分についてこの登録免許税はかかりません。これは形式上は所有権が受託者に移転していますが、実質的には所有権は委託者にあり、移転していないからです。
なお、信託登記分については別途1000分の4を乗じた額が課税されます。また、自己信託の場合は自己に移転登記をするわけにはいかないことから、信託財産となった旨の変更登記と信託登記を自身で行うこととなります。
詐害信託の取り消し
上でも触れたように、自己の財産を信託した場合、その財産は形式上受託者のものとなることから、委託者の債権者はその財産に対して差し押さえや仮差押ができなくなります。しかし、それでは債権者が債権を回収できなくなる場合もありえます。
そこで信託法では一定の場合に信託を取り消すことを認めています。信託法11条1項によりますと、委託者が債権者を害することを知りながら信託をした場合、受託者がそれについて善意・悪意を問わず、債権者は受託者に対し信託の取り消しを裁判所に請求することができるとされています。
ただし、既に受益者が存在する場合、その受益者が受益者の指定を受けたことを知った時、または受益権を譲り受けた時において債権者を害することを知らなかった場合は取り消しはできないとされています。
これは民法424条の詐害行為取消権と同様の趣旨といえます。
コメント
本件で工藤会のトップは、一部の民事訴訟で敗訴が濃厚となった頃に土地を親族に信託したとされています。被害者側はこれが詐害信託に当たるとして、受託者である親族を相手取り信託取り消しを求め福岡地裁に提訴しました。
信託当時、債権者を害することを知って信託がなされたかが主な争点となってくるものと考えられます。以上のように、信託法では自己の財産を一定の目的のために自己・または第三者に信託することを認めています。
これにより自己の財産とは切り離し一定の目的のために管理・運用をすることができ、その利益を指定した受益者に帰属させることができます。
一方で、この制度が財産隠しや賠償逃れに悪用されるおそれもあります。どのような要件で誰に対し信託取り消しの訴えを提起できるかを把握し、このような事態に備えておくことが重要といえるでしょう。
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