警視庁が退職代行「モームリ」を家宅捜索、弁護士法の規制について
2025/10/23 労務法務, コンプライアンス, 危機管理, 弁護士法, サービス

はじめに
退職代行サービス「モームリ」を運営する会社に警視庁が家宅捜索を行っていたことがわかりました。弁護士法違反の疑いがあるとのことです。
今回は弁護士法の規制について見直していきます。
事案の概要
報道などによりますと、モームリを運営する会社「アルバトロス」(品川区)の社長は、弁護士資格がないにもかかわらず、提携する弁護士に退職を希望する顧客を報酬目的で紹介していた疑いがあるとされます。
同社は法律事務所から違法に紹介料を受け取り、顧客の勤務先との交渉を取り次いでいたと見られているとのことです。近年、このような本人に代わって勤務先に退職の意思を伝える退職代行サービスが若者を中心に広がっており、就職情報会社マイナビの調査では2023年6月以降、1年間に転職した人のうち16.6%が利用していたとされています。
なお、アルバトロス社では、同社を利用して退職した累積件数が4万件以上にのぼるとしています。
非弁行為とは
弁護士法72条によりますと、「弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再審査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない」とされています。
つまり、弁護士以外の者が法律関係のトラブル解決を請け負ってはいけないということです。これは法律の専門家ではない者が、他人間のトラブルに関与すると解決するどころか、トラブルが深刻化したり取り返しのつかないことになるからです。
判例でも非弁行為は「当事者その他の関係人らの利益を損ね、法律生活の公正かつ円滑な営みを妨げ、ひいては法律秩序を害する」としています(最判昭和46年7月14日)。違反した場合は2年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金となっています(77条3号)。
非弁行為の要件
非弁行為の要件は、(1)弁護士または弁護士法人でないこと、(2)報酬を得る目的、(3)訴訟など一般法律事件に関すること、(4)法律事務の取り扱いまたはその周旋を業とすること、(5)法律によって認められていないこととなっています。
要件に報酬を得る目的で行うことが入っていますが、無報酬で行う場合は違法とはなりません。ただし、この報酬には金銭以外の物など様々な物が含まれ、また一見無報酬でも別のところで利益を得ていた場合などは報酬と認められることがあります。
対象となるのは法律事件に関するもので、訴訟以外にも非訟事件や審査請求なども含まれます。そしてそれらの事件に関して、鑑定や代理、仲裁、和解その他の法律事務、またはその周旋を行うと非弁行為となります。
中でも特に争いとなるのが、「その他の法律事務」の解釈です。判例上は、法律相談をはじめ、「法律上の効果を発生または変更する事項の処理」をいうとされていますが、日弁連の見解では、これに加え、契約書の作成など、「法律上の効果を保全および明確化する事項の処理」も含むと主張しています。
なお、非弁行為として禁止される「周旋」とは紹介することを意味し、弁護士に依頼人を紹介することなどです。また、これらの行為を「業として」行うことが必要です。これは反復継続して行うことを言うとされます。
非弁提携とは
上でも触れたように、非弁行為には「周旋」というものがあります。これは業として弁護士に依頼者となる者を紹介する行為です。そしてこれは受ける側の弁護士にも禁止規定が置かれています。
弁護士法27条によりますと、「弁護士は、第七十二条乃至第七十四条の規定に違反する者から事件の周旋を受け、又はこれらの者に自己の名義を利用させてはならない」とされています。
具体的には、非弁行為を行う者または紹介業を行っている業者から事件の紹介を受けることです。ここで注意が必要な点としては、非弁行為には報酬を得る目的が必要ですが、こちらの非弁提携には報酬目的は要件とはなっていないということです。
このように、非弁行為だけでなく受ける側の弁護士にも禁止規定が置かれているのは、非弁行為の禁止を徹底するためだと言われています。
コメント
本件でモームリは、弁護士資格が無いにもかかわらず、提携する弁護士に、退職を希望する顧客を報酬目的で紹介していた疑いがあるとされます。これが事実であった場合は、非弁行為の一つである周旋に該当するものと考えられます。
これは紹介を受ける側にとっても非弁提携行為に該当する可能性があり、警視庁は都内の2つの法律事務所にも捜索に入っているとのことです。
以上のように、弁護士法では弁護士資格の無い者による営利目的での法律事務関連行為を禁止しています。
これは場合によっては、弁護士に紹介する行為も含まれます。弁護士法だけでなく多くの士業でこのような規定が存在します。新たな事業を立ち上げる際には、このような規定に抵触しないか、専門家に相談の上慎重に進めていくことが重要と言えるでしょう。
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