大阪万博の海外パビリオンスタッフが賃金不払いを理由に労働組合を結成
2025/10/01 労務法務, コンプライアンス, 労働法全般

はじめに
大阪・関西万博の海外パビリオンのスタッフが賃金支払いなどを求め、労働組合を結成していたことがわかりました。「研修」として働いていた期間に対して給与が支払われていないとのことです。
事案の概要
報道などによりますと、大阪万博のヨルダンパビリオンで働いていたスタッフは今年4月、「研修」としておよそ6時間働いたものの、当該時間に関し、全員の給与が支払われていないといいます。
またこれを指摘したスタッフが翌月のシフトに入れてもらえないなど不当な扱いを受けたと訴えているとのことです。
これを受け、今回結成された労働組合には他のパビリオンで働くスタッフなどからも同様の相談がおよそ30件寄せられているとされ、労働組合は博覧会協会に対して労働環境の実態調査を求めています。
労働組合側は「主催者として、協会にも責任ある対応を求めたい」としています。
労働組合とは
労働組合とは、労働者が主体となって自主的に労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的として組織する団体またはその連合団体をいいます(労働組合法2条1項)。
日本国憲法28条では労働者に団結権、団体交渉件、団体行動件を保障しています。しかし、雇用主である会社と労働者では交渉力や情報力などにおいて大きな格差があり、個別の労働者が会社と交渉することは困難と言えます。
そこで、これら労働者の労働基本権を具体化すべく労働組合法が用意されています。労働組合法では、労働者が自主的に労働組合を組織して団結し、使用者との関係を規制する労働協約を締結するため団体交渉をすることとその手続を助成する規定が盛り込まれています。
労働組合の結成
労働組合は労働者が複数人集まれば自由に結成することが可能で、それに対して行政機関の認可や届出といった手続きも特に必要とはされていません。
ただし、労働組合には一定の要件があり、労働者が自主的に組織したこと、組合の目的が労働条件の維持改善であること、使用者側の利益代表者の参加を認めないこと、使用者側から援助を受けないこと、共済事業等のみを目的としていないこと、政治運動等を主目的としていないことなどを満たす必要があります。
そして、原則として行政機関の認可等は不要ですが、不当労働行為の救済申立てや労働委員会の委員候補者推薦、法人登記をするための資格証明書を受け取る、労働協約の地域的拡張適用申立てをするといった場合には管轄の労働委員会に資格審査を受ける必要があります。
その際には資格審査申請書と立証資料を提出することとなります。
不当労働行為とは
労働組合法では、会社が労働組合の活動を妨害する行為として以下の6つの行為を不当労働行為として禁止しています(7条)。
(1)不利益取扱
不利益取扱は労働者が労働組合に加入したり結成しようとしたことなどを理由に解雇や配置転換など不利益に扱うことを言います。
(2)黄犬契約
黄犬契約とは会社が労働組合に加入しないことや脱退することを雇用の条件とすることです。
(3)団体交渉拒否
(4)支配介入
支配介入とは労働組合の結成や運営について会社が妨害や主要人物の解雇・配転、脱退の働きかけ、組合活動を非難するといった行為を言います。
(5)経費援助
(6)報復的不利益取扱
報復的不利益取扱とは、労働委員会への不当労働行為救済申立てをしたこと、再審査申立てをしたこと、労働委員会の調査で証拠を提出したりしたことに対し会社が解雇や配転など不利益取扱をすることを言います。
これらの行為には現状罰則は規定されていませんが、労働委員会の救済命令に違反した場合は罰則が用意されており、また民事上の責任を負うことも有りえます。
コメント
「関西万博関連ユニオン」によりますと、本件に関連し、ヨルダン館など少なくとも4つのパビリオンで民間業者と雇用契約を結んだアルバイトや従業員から、給与の未払いなど労働法令違反を訴える相談が寄せられているといいます。
ユニオンは万博での労働環境の調査や民間業者への法令遵守の指導を求めています。
以上のように労働契約法では労働者が複数人、自主的に集まれば労働組合は結成できます。
一人一人では交渉が困難な場合でも団体として活動することで一定の交渉力が生まれると言えます。また一定の場合には労働委員会による救済の申立ても可能です。
自社に労働組合結成の動きがある場合や、団体交渉の申し入れがあった場合には労働契約法に基づいて慎重に対応していくことが重要と言えるでしょう。
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