東京地裁が「ジェットスター・ジャパン」に約1200万円支払い命令、労働条件の変更について
2025/09/17 労務法務, 労働法全般

はじめに
格安航空会社(LCC)「ジェットスター・ジャパン」(千葉県成田市)の客室乗務員が賃金の一方的引き下げは不当として減額分の支払いを求めていた訴訟で東京地裁は11日、会社側に約1212万円の支払いを命じました。労働条件の変更は無効とのことです。
今回は労働契約法の労働条件変更について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、ジェットスター・ジャパンでは2021年1月から新型コロナウイルス禍を機に「客室乗務員との雇用契約を時給制から月額固定給制に一斉変更する」旨を社員に説明し同年3月末までに同意するよう求めていたとされます。
同社は同年4月以降一斉変更を行い、同意しなかった者については時給が減額されたとのことです。同意しなかった客室乗務員らは「賃金が一方的に減額されたのは不当だ」として未払い賃金分の支払いなどを求め東京地裁に提訴していました。
これに対し、会社側は労働条件の変更にはおよそ8割が同意していたなどと反論していました。
労働条件の変更
会社と従業員との間の雇用契約で定めた労働条件を途中で変更する必要が出てくるということは少なくないと言えます。
では、そのような場合に労働条件を事後的に変更することが可能なのでしょうか。この点、労働契約法第8条では労働者および使用者はその合意により労働契約の内容である労働条件を変更することができると定めています。
つまり、会社と従業員が合意すれば労働条件を変更することは可能ということです。これは逆に言えば従業員が合意しなければ会社側から一方的に労働条件を変更することは原則としてできないことになります。
労働条件は従業員にとっては生活の基礎にも直結する極めて重要な事項であることから会社から一方的に変更できないようになっています。以下では例外的に変更できる場合を見ていきます。
就業規則による労働契約の内容の変更
労働契約法第9条では、使用者は労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできないとしつつ、ただし書きで次条の場合はこの限りではないとしています。
そして、第10条では、使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ就業規則の変更が労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは変更が可能としています。
つまり、(1)労働者への周知と(2)就業規則の変更の合理性が認められた場合には労働者の合意がなくても変更が可能ということです。
労働条件変更に関する裁判例
労働条件変更に関する裁判例として、従業員の73%が加入する労働組合の同意を得た上で2度にわたって賃金制度をしたものの少数組合の同意を得ていなかったという事例があります。
この事例で最高裁は、賃金、退職金など労働者にとって重要な権利、労働条件に関し実質的な不利益を及ぼす就業規則の変更については、労働者に受任させることを許容することができるだけの高度の必要性に基づいた合理性が求められるとした上で、その合理性の有無の判断については就業規則の変更によって労働者が被る不利益の程度、使用者側の変更の必要性の内容・程度、変更後の就業規則の内容自体の相当性、代償措置その他労働条件の改善状況、労働組合等との交渉の経緯、他の労働組合または従業員の対応、同種事項に関する国内の一般的状況を総合考慮するとしました(最判平成12年9月7日)。
なお、本事例に対する判断としては、会社側の差し迫った必要性に基づくコスト削減ではなく、従業員にもっぱら大きな不利益のみを与えるものであって諸事情を考慮しても合理性は認められないとしました。
コメント
本件でジェットスター側は労働条件の変更につきおよそ8割の客室乗務員が同意していると反論していたとされます。
これに対し、東京地裁は、会社が行った減額は、減額率が最大で約11%、平均約6.1%と相応の不利益と認定。条件変更の必要性や相当性についての会社側の立証も、労働組合との交渉もいずれも不十分とし、「合理性は認められない」として変更を無効としました。
以上のように、会社側から一方的に労働条件を変更する場合は高度の必要性と合理性が求められます。労働者への真摯な交渉も必要です。労働者の大半が合意しているとしても合意していない労働者に変更を強いることはできないと言えます。
労働条件の変更が必要なたった際には、これらの判断要素を踏まえて十分に立証できるのかを慎重に判断していくことが重要と言えるでしょう。
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