ゼンショーHDが500億円分発行、社債型種類株式とは
2025/08/25 商事法務, 総会対応, 会社法, 外食

はじめに
牛丼チェーン「すき家」などを展開する「ゼンショーホールディングス」は18日、議決権と普通株式への転換権のない種類株式500億円分を発行すると発表しました。
同社としては初とのことです。
今回は社債型種類株式について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、ゼンショーホールディングスは議決権と普通株式への転換権がない社債型種類株式500億円分を発行し、「すき家」や「はま寿司」などの新規出店費用の他、デジタル投資に充てるとされます。
同種類株式の配当利率は発行後おおむね5年間は年率4~4.5%で固定し、発行条件は9月9~11日に正式決定するとのことです。
申込期間は条件決定日の翌営業日~9月30日で、払込期日は10月1日となっており、10月2日に東証プライムに上場される見通しです。
このような社債型種類株式の発行は同社では初とされます。
社債型種類株式とは
「社債型種類株式」とは、優先株等として上場される株式のうち、社債に類似した性質を持つ種類株式をいいます。
通常の優先株式は普通株式よりも優先して配当を受け取ることができる代わりに議決権が制限されていることが多いと言えます。
会社経営には関心がなく、もっぱら配当のみを重視する投資家などから資金調達を行う際に利用されます。
一方で会社にとって優先配当は負担となり、また株主にとってもそのままでは売却などによる投下資本の回収が難しいというデメリットがあることから普通株式への転換権が付けられます。しかし、普通株式に転換されると既存株主の議決権が希薄化されることとなります。
そこで、社債型種類株式には優先配当と議決権制限は付けられますが、普通株式への転換権は付けられていません。
そのため、通常の株式のように売却による投下資本の回収はできませんが、社債のように償還を受けることができるようになっています。
このように社債型種類株式は株式というよりも社債に近い性質を持っています。
社債型種類株式のデメリット
社債型種類株式のメリットとしては上記のように、既存株主の議決権を希薄化せずに会社経営に関心のない投資家を優先配当で誘引できるという点です。
一方で社債型種類株式にはいくつかデメリットがあります。
(1)普通株式よりも配当で優先されるものの、社債権者などの債権者よりは劣後することから分配可能額がない場合は配当が行われず、期待するリターンが得られないリスクがある
(2)社債に近いことから普通の株式と異なり会社の信用力に連動し、株価の動きが予測しづらい
(3)社債型種類株式には一般に取得条項が付されており、取得事由の発生時期によっては、株主の想定に反したタイミングで株式が強制的に金銭に変換されてしまう
(4)会社側にとっても社債型種類株式の取得にはみなし配当や譲渡損益が発生し、税法上の手続きも必要となる場合がある
種類株式の発行手続き
種類株式には多くの種類があり、優先株、劣後株、議決権制限株、譲渡制限株、取得請求権付株、取得条項付株、全部取得条項付株、拒否権付株、選任権付株などが挙げられます(会社法108条)。
種類株式を発行する場合、それぞれの種類株式の種類に従って定款に定める事項を決定します。優先・劣後株では交付する配当財産の額や決定方法、議決権制限株では議決権を行使できる事項、譲渡制限株では譲渡による取得について会社の承認を要する旨などです。
これらを定款に記載するには定款変更として株主総会の特別決議が必要となります(466条、309条2項11号)。
また、公開会社が譲渡制限株式を発行する際には、発行済株式総数の50%を超えないようにする必要があり、超える場合は50%以下になるよう必要な措置を取る必要があります(115条)。
既に発行済の種類株式に譲渡制限を付ける場合は当該種類株主総会で特殊決議も必要となります(111条2項、324条3項1号)。
コメント
本件でゼンショーが発行予定としている社債型種類株式は、議決権と普通株式への転換権が無く、発行からおおむね5年間は固定配当、その後は変動配当となっており、累積型・非参加型の優先配当となっています。
また、発行から5年経過後は同社が金銭対価で取得が可能とされます。これは以前にも取り上げたソフトバンクが発行している社債型種類株式と同様の形式となっており、同じように東証プライムに上場させて広く一般公募されます。
以上のように社債型種類株式は既存株主から敬遠される議決権の希薄化を回避することができ、会計上は全て自己資本となることから財務の健全性を確保しつつ資金調達が可能です。
金融商品それぞれのメリット・デメリットを踏まえつつ、自社の状況に合った資金調達を選択していくことが重要と言えるでしょう。
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