青山学院「雇い止め」訴訟で非常勤講師が敗訴、無期転換ルールについて
2025/08/04   契約法務, 労務法務, 労働法全般

はじめに


青山学院高等部の非常勤講師の雇い止めを巡る訴訟で7月31日、東京地裁が非常勤講師側の請求を棄却していたことがわかりました。

「雇い止めは客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当」とのことです。今回は非正規雇用の無期転換ルールについて見直していきます。

 

事案の概要


報道などによりますと、原告の男性は2019年4月1日に青山学院高等部に非常勤講師として採用され、1年ごとに契約を更新してきたとされます。
しかし無期転換権が発生する5年目の契約更新が拒否され、2024年3月31日に雇い止めとなったとのことです。

男性は「無期転換を阻止するための不当な雇い止め」であるとして、同校に対し雇い止めの撤回と契約の更新を求め東京地裁に提訴していました。

なお、同校では無期転換権発生を念頭に、非常勤講師については5年を雇用継続の上限とする運用がとられていたものの、2020年度から5年上限は撤廃されていたとのことです。

 

無期転換ルールとは


無期転換ルールとは、同一の使用者との間で、有期労働契約が5年を超えて更新された場合に有期契約労働者からの申し込みにより無期労働契約に転換されるという制度を言います(労働契約法18条)。
有期雇用労働者の雇用継続に対する期待を保護し、その地位を安定させることが目的と言われています。

有期雇用労働者は契約期間が終わるたびに雇い止めされるリスクを抱えており、長年同じ職場で勤務しているにもかかわらず、ある時突然に失職するのは酷だからとされます。

雇用者側の視点では、有期契約労働者を無期雇用労働者とするメリットとして、長期的な視点で人材育成ができることや、労働力の安定的な確保、また企業としてのイメージアップにつながることも指摘されています。
一方で無期転換によるデメリットとしては、人件費の増加や、会社の都合によりフレキシブルに人員整理ができなくなることなどが挙げられます。

以下具体的な要件を見ていきます。

 

無期転換権の発生要件


無期転換権が発生する要件は、有期労働契約が「5年」を超えて更新されることです。

たとえば契約期間が1年の場合、5回目の更新後の1年間に無期転換申込権が発生します。これが例えば3年契約であった場合、1回の更新で有期労働契約が「5年」を超えて更新されること(3年契約×2)が確定するため、1回目の更新後の3年間に無期転換権が発生することとなります。
つまり、5年を超える更新がなされたら発生するということです。

この要件を満たす有期雇用労働者が使用者に無期転換の申し込みを行った場合、有期労働契約の期間満了日の翌日から自動的に無期労働契約に移行することとなります。
使用者はこの無期転換の申し込みを拒否することはできません。

また、2024年4月1日施行の改正労働基準法施行規則では、使用者が有期雇用労働者を雇用する際に有期労働契約の通算契約期間または更新回数の上限、無期転換の申し込みに関する事項と無期転換後の労働条件を明示することを義務付けています(5条1項1号の2)。

 

雇い止め法理とは


有期契約労働者の契約期間満了の際に契約を更新せずに打ち切ることを雇い止めと言います。
雇用契約締結中の労働者と雇用契約を打ち切る解雇とは異なる概念です。

雇い止めすること自体は原則として会社の自由と言えます。
しかし、労働契約法では一定の場合にこの雇い止めを制限しています(19条)。これを雇い止め法理と言います。

もともとは判例で認められていた考え方ですが、平成24年労働契約法改正で明文化されました。

具体的な内容としては、
(1)有期労働契約が過去に反復して更新されており、雇い止めが無期雇用労働者の解雇と社会通念上同視できる場合
または、
(2)有期雇用労働者が期間満了時に更新されるものと期待することについて合理的な理由がある場合

には、雇い止めに客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が求められます。

上記は、更新の際に書面を作成していなかったり、長年雇い止めしないことが常態化しているような場合を指します。

なお、厚労省は無期転換ルールを回避する目的の雇い止めは同法の趣旨に照らして望ましくなく、更新年限や更新回数上限を会社が設けていたとしても違法となる場合があるとしています。

 

コメント


本件で東京地裁は、「原告が更新されることについての期待は合理性の程度が高いとは言えないものの、一定程度の合理性があった」とした上で、本件雇い止めは客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であるとして請求を棄却しました。

今回、原告側は敗訴した形となりますが、原告側の合理的期待が認められた点については、雇い止め問題における一つの前進と評価されています。

以上のように労働契約法では一定の要件の下で有期労働者からの無期転換を認めています。
これを回避するための雇い止めは客観的合理性と社会通念上相当性がなければ違法となる場合があります。

有期労働者を雇用している場合は、これらを踏まえて今一度、社内の労務管理状況を見直して周知しておくことが重要と言えるでしょう。

 

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