島村楽器、フリーランス講師に無報酬でレッスンさせたか?フリーランス法違反で勧告
2025/07/10 契約法務, コンプライアンス, サービス

はじめに
音楽教室でフリーランスの講師に体験レッスンを無償でさせていたなどとして、公取委がフリーランス法違反で島村楽器に勧告していたことがわかりました。同法による勧告はこれで3例目とのことです。今回はフリーランス法について見直していきます。
事案の概要
報道などによりますと、島村楽器は2024年11月~今年2月、業務委託する101人のフリーランス講師のうち、11人に体験レッスンを無償で計19回させていたとされます。
また、97人に報酬額や支払期日といった取引条件を書面やメールで明示せず、86人には報酬を期日までに支払っていなかったとのことです。
講師に委託する際の覚書には「ご自分の生徒さんを集める活動の一つとして協力をお願いしており、実施に際して報酬は発生しません」と記載されていたとされます。
公取委は、フリーランス法が禁じる不当な経済上の利益の提供要請に該当するとして勧告しました。
フリーランス法とは
フリーランス法とは、正式名称を「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」と言い、事業者がフリーランスに仕事を発注する際に、報酬の支払期日や書面による取引条件の明示、その他の遵守事項を定め、フリーランスの安定した労働環境の整備を目的としています。
同法は2023年4月28日に成立し、2024年11月1日から施行されています。
下請法は親事業者と下請事業者に該当するかは、それぞれの資本金の額で決まりますが、フリーランス法は組織の人数で適用が決まります。
これまで適用外として下請法で保護できなかったフリーランスが、新たに保護の対象となるということです。以下、具体的に見ていきます。
フリーランス法の適用範囲
フリーランス法では、フリーランスを「特定受託事業者」と言い、規制の対象となる発注側を「業務委託事業者」「特定業務委託事業者」と言います(2条1項、2項)。
特定受託事業者とは、個人であって従業員を使用しない者や、法人であっても他の役員や従業員を使用しない場合を言います。
一方、委託事業者側は、その事業のために他の事業者に物品の製造、情報成果物の作成、役務の提供の委託をするものを言うとされます。
法人であるか否かや資本金の額も問われず、また下請法と異なり、自社の宣伝や広告、無償アプリ、社内用の外国文書翻訳、その他法的助言など、自社向け役務提供なども広く対象となっています。
このように、フリーランス法は事業者同士のいわゆるBtoB取引を対象としており、消費者との取引であるBtoC取引は対象としていないとされています。
フリーランス法の規制内容
フリーランス法が適用される場合、委託事業者はフリーランスに委託した際に、直ちに明示すべき事項を書面または電磁的方法により明示することが義務付けられます(3条)。
明示事項は、契約当事者、委託日、給付の内容、受領期日、受入検査の完了日、報酬の額、報酬支払期日、手形を交付する場合は手形金額と満期、電子マネーで支払う場合は電子マネー事業者と総金額などとなっており、ほぼ下請法で求められるものと同様です。
また、報酬支払期日についても、原則として給付を受領した日から起算して60日以内のできる限り短い期間内で定める必要があります(4条1項)。
再委託の場合は、元委託の支払期日から起算して30日以内とすることも可能です。
これら以外にも、下請法で定められているものと同様の禁止事項が置かれており、受領拒否や報酬の減額、返品、買いたたき、購入・利用強制、不当な経済上の利益の提供要請、不当なやり直し、公取委等に申告したことに対する報復行為などが禁止されています(5条)。
コメント
本件で島村楽器は、業務委託しているフリーランス講師11人に無料で体験レッスンをさせていたとされ、97人に取引条件の明示をせず、また86人に期日までに報酬を支払わなかったとのことです。
フリーランス講師は、個人または1人会社である場合は特定受託事業者に該当し、フリーランス法の適用があります。
公取委は、フリーランス法に違反するとして勧告しました。
以上のように、フリーランス法では単独で仕事をする個人事業主などに発注した場合に適用されます。
これまで下請法では対象外となっていた例も、ことごとく適用対象となるほど範囲が広くなっています。
現状、同法には直罰規定はなく、公取委により勧告などに違反した場合に50万円以下の罰金が規定されていますが、今後罰則が強化されることもありえます。
フリーランスに業務委託をしている場合には、取引条件などの明示をしているか、支払期日は適正かなど見直しておくことが重要と言えるでしょう。
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