ケイマン諸島 - 新たな実質的支配者規制の施行
2025/06/30 海外法務, コンプライアンス

はじめに
世界的に、企業にはより高度なガバナンスが求められるようになっており、法務や管理部門担当者は、これまで以上に注意深く対応する必要があります。
Mercatorは、180以上の国・地域で顧客企業にサービスを提供してきた実績をもとに、海外の事業運営に影響を与える企業法務の最新動向をお届けします。
当社の専門的な知見を活かし、複雑な規制要件への対応やコンプライアンス体制の構築をサポートいたします。
2025年1月1日より、「2023年ケイマン諸島実質的支配者透明化法(BOT法)」が完全に施行されました。
本法は、従来の実質的支配者(UBO)規制を統合・拡充するものであり、ケイマン諸島で事業を行う企業にとって重要な更新をもたらします。
主な変更点
1. 対象範囲の拡大
BOT法は、新たな事業体を対象に含めており、すべての「法的実態」に適用されます。新たに対象となる法人の種類は以下の通りです。
• 会社
• 合同会社(LLC)
• 有限責任事業組合(LLP)
• リミテッドパートナーシップ(LP)
• 免税リミテッドパートナーシップ(ELP)
• 財団企業
2. 「実質的支配者」の定義の更新
実質的支配者の定義が改正され、ケイマン諸島のマネーロンダリング防止規制により一層適合したものとなっています。実質的支配者とは、次に該当する個人を指します。
• 株式、議決権または出資持分の25%以上を、直接的または間接的に所有または支配している者
• 経営に対して最終的な実質的支配を行使している者
• または他の手段で支配を行使していると認定される者
「専門アドバイザー」または「専門マネージャー」の役割でのみ業務を行っている個人は、実質的支配者とは見なされません。
3. 報告免除の縮小
新たなBOT法では、従来よりも大幅に報告義務の免除が縮小され、「コンプライアンスのための代替ルート」を導入しています。
これにより一部の事業体は、実質的支配者情報の全項目を報告する代わりに、限定的な「必要事項」のみを報告することで手続きの簡素化と透明性の両立が図られます。
4. 情報公開の可能性
現在ケイマン諸島では、実質的支配者登録簿の情報は一般には公開されていませんが、BOT法の下で今後その方針が変更される可能性があります。
議会での決議を前提に内閣が追加規則を制定することで、登録対象者の必要な事項を一般公開する権限を、登録官に対し与えることができます。
またケイマン諸島政府は、「正当な利害関係」を有する市民に対し、情報アクセスを提供する方向で取り組んでいることも示しています。
対象法人に課される義務
• 対象の事業体は、認可を受けたコーポレート・サービス・プロバイダー(CSP)を任命しなければなりません。CSPは、当該事業体の実質的支配者情報を中央実質的支配者登録簿で管理します。
• 実質的支配者情報は年次で報告する義務があります。(通常は年次報告書の一部として提出)
• 実質的支配者情報に変更があった場合は、1か月以内に報告しなければなりません。
コンプライアンス違反のリスク
• 罰金
初回の違反:最高25,000ケイマン・ドル(約30,000米ドル)
継続的な違反:1日あたり500ケイマン・ドル(約600米ドル)
• 登記抹消
会社登記局は、違反企業を法人登記簿から会社を抹消する権限を有します。
• 過料:
登記官は、最高250,000ケイマン・ドル(約300,000米ドル)の過料を科すことができます。
• 事業制限:
違反企業は、一定の取引や事業活動に制限を受ける可能性があります。
• 取締役の責任:
会社の違反に対し、取締役や役員が個人として責任を問われることがあります。
• 規制当局による監視強化:
違反企業は、規制当局からの監査や審査の強化対象となる可能性があります。
本変更の施行を受け、ケイマン諸島において事業を行う企業は、自社の組織構造とコンプライアンスプロセス体制を再点検することが不可欠です。
複数の国・地域をまたいで企業法務を適切に行うには、専門知識やリソース、常時の監視体制が求められます。
Mercatorは180以上の国・地域で対応が可能なネットワークを通じて、以下のサービスを提供しています:
• 海外子会社の企業法務の管理
• 透明性の向上と業務の改善
• リアルタイムでのコンプライアンス監視
• グローバルに対応するガバナンス・ソリューション
御社の海外子会社管理業務の最適化に、ぜひ当社の広範なネットワークと専門知識をご活用ください。
お問い合わせ先
本記事はMercator® by Citco (Mercator)が作成したものです。記事内容に関するご質問・お問い合わせは、下記までご連絡ください。
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