「モペット」を電動アシスト自転車として販売で逮捕
2025/05/26 コンプライアンス, 広告法務, 不正競争防止法, 小売

はじめに
神奈川県警は、運転免許が必要なペダル付き電動バイク「モペット」を免許なしで乗れる「電動アシスト自転車」として販売したとして、自転車パーツ販売会社「オフィスケイ」の社長を逮捕しました。容疑は「誤認惹起表示」によるものと報じられています。
事案の概要
報道によりますと、「オフィスケイ」は2025年2月27日から5月2日まで、同社のホームページ上でモペットを電動アシスト自転車と誤認させる表示をして販売していたとされています。
また、同社は2022年3月末以降、東京、大阪、愛知、北海道、沖縄など8都道府県の店舗および通販を通じて、モペットを合計約1,000台販売し、総額3億円以上を売り上げたと見られています。
神奈川県警によると、2023年12月、横浜市鶴見区で無免許運転をしていた20代の男性が、「電動アシスト自転車」という表示を見て購入したと説明したことから、本件が発覚したとのことです。
押収されたモペットは、時速約40キロで走行する能力があったとされています。
不正競争防止法による規制
不正競争防止法は、事業者間の公正な競争を確保することで、国民経済の健全な発展に寄与することを目的としています(第1条)。
同法では、事業者間の公正な競争を阻害する行為を「不正競争」として類型化し、これにより営業上の利益を侵害された者には、差止請求や損害賠償請求を認めています。
また、罰則規定も設けられています。
不正競争の例には、他社の有名なロゴを無断使用する行為、他社製品の模倣販売、不正手段による営業秘密の取得、競争相手の信用を毀損する虚偽の流布などがあります。
さらに、商品の原産地や品質などについて誤認させる表示も「品質等誤認惹起行為」として規定されています(第2条第1項第20号)。以下、具体的に見ていきます。
品質等誤認惹起行為の要件
不正競争防止法第2条第1項第20号によると、次のような行為が「品質等誤認惹起表示行為」とされます。
「商品の原産地、品質、内容、製造方法、用途または数量、もしくは役務の質、内容、用途または数量について誤認させるような表示をし、その表示がなされた商品や役務を譲渡・展示・提供などすること。」
表示の対象には、商品そのもの、広告、取引書類、通信手段などが含まれます。
また、実際に誤認が発生している必要はなく、「誤認させるおそれ」があれば該当するとされています。
判断にあたっては、表示の内容や取引の実情などを総合的に考慮し、一般消費者に誤認を与える可能性があるかどうかが基準となります。
誤認惹起行為の具体例
以下は、実際に誤認惹起表示と認定された例です。
・原石はベルギー産でないにもかかわらず、「原石ベルギー直輸入」と表示して販売したダイヤモンドの例(東京高等裁判所 昭和53年5月23日判決)
・鶏肉や豚肉を混ぜたミンチ肉を「牛100%」と表示して約138トン出荷した例(札幌地方裁判所 平成20年3月19日判決)
・加工乳を「種類別牛乳」「成分無調整」と偽って販売していた例(仙台地方裁判所 平成9年3月27日判決)
これらはいずれも刑事事件として立件され、有罪判決が下されています。
その他にも、「本みりん」でない調味料を「本みりんタイプ」と表示したケースや、消滅した特許を国際特許で保護されているように偽装したケースも報告されています。
コメント
本件では、運転免許が必要な「モペット」を、免許不要な「電動アシスト自転車」として表示・販売していたとされており、これは製品の内容・用途に関する誤認惹起行為に該当する可能性が高いと考えられます。
このように、商品やサービスの原産地、品質、内容などについて誤解を招く表示を行った場合、不正競争防止法に違反する可能性があります。
違反すると、5年以下の懲役または500万円以下の罰金という重い罰則が科されることになります。
さらに、品質や価格について実際より著しく優良または有利な表示をした場合には、別途「不当景品類及び不当表示防止法(景品表示法)」に抵触することにもなります。
これらを踏まえ、製品表示に関する社内のルール整備と、法令遵守の徹底が求められます。
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