中労委が東京藝大の労働紛争に救済命令、団交拒否とは
2025/04/14   労務法務, コンプライアンス, 行政対応, 労働法全般

はじめに

 東京藝術大学とその非常勤講師らの労働紛争で、中央労働委員会が不当労働行為に当たるとして救済命令を出していたことがわかりました。神奈川労委も同様の判断をしていたとのことです。今回は労働組合法の禁止する団交拒否について見直していきます。

 

事案の概要

 弁護士ドットコムニュースの報道によりますと、東京藝大の非常勤職員などでつくる教員ユニオンが2019年1月、同大の非常勤講師や事務職員ら3人に対し無期雇用への転換拒否や雇止めなどを行ったことについて団体交渉を申し入れていたとされます。しかし大学側はあくまで「話し合い」には応じるという態度を示し、団体交渉に応じる姿勢は見せなかったとのことです。これに対し教育ユニオン側は2020年2月に神奈川県労働委員会に救済申立を行い、同委員会は大学側の態度を正当な理由なく団体交渉を拒む行為に当たるとして救済命令を出しました。大学側はこれを不服として中央労働委員会に再審査の申立を行っていたとされます。

 

不当労働行為とは

 不当労働行為とは、会社が労働組合との関係で行ってはならない行為として労働組合法に規定されているものを言います(7条)。具体的には(1)不利益取扱い、(2)黄犬契約、(3)団交拒否、(4)支配介入、(5)経費援助の5種類が規定されております。労働者には労働三権として、団結権、団体交渉権、団体行動権が憲法上保障されておりますが、これらの不当労働行為は労働者のこれらの権利行使を妨げるものと言えます。労働組合法ではこれらの行為自体は禁止しておりますが、これに違反した場合でも現状罰則は規定されておりません。そのため不当労働行為を行ったとして労基署から送検されたり、また逮捕といったことも現段階ではありません。ただし不当労働行為に対しては労働委員会に対する救済申立という制度が用意されており、ここで出された救済命令に違反した場合は罰則が用意されております。

 

団体交渉とは

 今回は不当労働行為のうち、特に団交拒否について見ていきますが、そもそも団体交渉とはどのようなものなのでしょうか。団体交渉とは一般に、会社と労働者の団体が、労働者の待遇など労働条件について話し合うことを言うとされます。「団体」と言うように個々の従業員ではなく、複数の従業員がまとまって行います。大企業では通常は労組がありますが中小企業の場合はユニオンを通して行うことが多いとされます。そして団体交渉の対象となる事項は賃金関係、労働時間、休憩、休日、休暇、労働環境、安全性、災害補償、教育訓練、労働内容、方法場所などの労働条件に関するものや、人事評価や解雇、懲戒、配転などの人事関係、組合員の範囲や団交のルール、争議行為の手続き、会社の設備や会社組織に関するものなど多岐にわたります。このような従業員の団体と会社との交渉を団体交渉と言います。

 

団交拒否とは

 労働組合法7条2号によりますと、「使用者が雇用する労働者の代表者と団体交渉をすることを正当な理由がなくて拒むこと」を違法な団交拒否としております。団交拒否は正当な理由なく交渉を拒否することだけでなく、誠実に交渉しないことも団交拒否とみなされると言われております。たとえば交渉には応じるものの、文書や電話でのみ対応し、直接対面で話し合うことは拒否したという事例で裁判所は不誠実交渉にあたり団交拒否に該当するとしました(東京地裁平成2年4月11日)。またたとえば大阪支店の従業員からの団体交渉の申し入れに対し、東京本社でしか応じないと回答することや、交渉のために必要な決算書類などの開示を求められた場合にそれを拒否することも同様とされます。一方で、既に団体交渉で議論が尽くされていた場合、さらに団体交渉の要求を拒否することは正当な理由ありと判断される可能性があります。また裁判等ですでに解決した問題を議題とする団体交渉を拒否することや、労働者側が暴力行為に及んでいた場合などは正当な理由が認められる場合があると言えます。

 

コメント

 本件で東京藝大側は「団体交渉ではないですよね、ここは話し合いですから」と話し合いには応じるものの団体交渉には応じないとし、ユニオン側の質問にも応じなかったとされます。これに対し神奈川労委は労働契約法の団交拒否に該当するとしました。大学側は実質的な交渉を行っており、団体交渉拒否な不誠実交渉にはあたらないと反論していたとされますが、中労委は不当労働行為に該当すると救済命令を出したとのことです。以上のように労働者には会社に対し団体交渉を求める権利があり、それに対し正当な理由なく拒否することや、誠実に交渉しないことは不当労働行為として違法となります。どのような場合に応じなければならないのか、またどのような場合であれば正当な理由が認められるのかを慎重に見極め、対応していくことが重要と言えるでしょう。

 

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