中国陸運を長時間残業で書類送検、時間外労働規制と2024年問題
2025/04/07   労務法務, コンプライアンス, 労働法全般, 物流

はじめに

 倉敷労働基準監督署が2日、中国陸運(広島県廿日市市)を労働基準法違反の疑いで岡山地検に書類送検していたことがわかりました。法定上限を超えて時間外労働をさせていた疑いがあるとのことです。今回は時間外労働の上限規制と2024年問題について見直していきます。

 

事案の概要

 報道などによりますと、中国陸運は倉敷市広江の営業所センターでの2024年3月~7月の勤務で、作業員3人に労使協定で定めた時間を超えて時間外労働を行わせていた疑いがあるとされます。また2024年9月に労基署が営業所に立入検査をした際、労働時間を過少に記載した帳簿書類等を提出し、虚偽の説明をしていた疑いもあるとのことです。同社は最大で月150時間の時間外労働をさせていた疑いもあるとされております。倉敷労基署は同社と本社の人事総務労務部長、倉敷営業所センター長を労基法違反の疑いで書類送検しました。

 

労基法の労働時間規制

 これまでも何度か取り上げてきましたが、ここでも労基法の基本的な労働時間規制を見直しておきます。労基法では原則として労働時間は1日8時間、1週間で40時間が法定労働時間として規定されております。そして毎週少なくとも1回は休日を設ける必用があります。この法定労働時間を超えて時間外労働をさせる、また法定休日に労働させるためには労使協定を締結し、所轄の労働基準監督署に届け出る必用があります(36条)。これはいわゆるサブロク協定です。36協定では時間外労働を行う業務の種類や時間外労働の上限を定めておく必用があります。以前はこの時間外労働については法律上の上限が設けられておりませんでした。一応の上限として厚生労働大臣の告示による上限基準が定められてはいましたが、特別条項付36協定でそれを超えることができました。それでは現行法での上限はどのようになっているのでしょうか。

 

時間外労働の上限規制

 現在の労基法では36協定を締結しても時間外労働は原則として月45時間、年360時間が上限となります。これを超えるには臨時的な特別の事情があって労使が合意する場合(特別条項)でなければならず、その場合でも年720時間、時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満、時間外労働と休日労働の合計について「2ヶ月平均」「3ヶ月平均」「4ヶ月平均」「5ヶ月平均」「6ヶ月平均」が全て1月あたり80時間以内、そして時間外労働が月45時間を超えることができるのは年6ヶ月が限度という制約を守る必用があります。また特別条項の有無にかかわらず、1年を通して常に時間外労働と休日労働の合計は月100時間未満、2~6ヶ月平均80時間以内でなければならないとされております。これに違反した場合は6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金とされております(119条1号)。この上限規制は大企業で2019年4月1日から、中小企業で2020年4月1日からとなっております。

 

2024年問題

 上で触れた現行労基法の時間外労働の上限規制は建設業、自動車運転業、医師、一部地域での砂糖製造業だけ5年間適用が猶予されており、2024年4月1日から適用が開始されました。これがいわゆる2024年問題です。これらの業種では一般に長時間労働になりやすく、長時間労働の是正には時間がかかると考えられたからです。適用後の上限規制は業種によって異なりますが、トラックやバスなどの自動車運転業では特別条項付36協定を締結する場合の上限が年960時間となります。そして上で触れた月100時間未満、2~6ヶ月平均80時間以内、また時間外労働が月45時間を超えることができるのは年6ヶ月までとする規制は適用外となります。このように自動車運転業では他の業種よりもある程度規制が緩和されておりますが、それでも是正は簡単ではないと言われております。繁忙期では1ヶ月の労働時間が274時間を超える事業者は2021年度では約34%を占め、320時間を超える事業者も2.4%になるとされており、これを規制内に収めるのは厳しいのが現状とされております。

 

コメント

 本件で詳細は不明ですが中国陸運は倉敷市の営業所センターで勤務する作業員3人に労使協定で定めた上限を超えて時間外労働をさせていたとされます。また1ヶ月100時間を超えるものや、最大で150時間を超える時間外労働もあった疑いが持たれております。上でも触れたように36協定で定めた上限時間を超えるには特別条項が必用であり、その場合でも1ヶ月100時間は違法となります。以上のように現在では時間外労働には法定の上限が設けられており、違反した場合は罰則も規定されております。昨年から適用が開始した運送業等でも年960時間以内という上限ができました。これらを踏まえ、今一度自社の従業員の労働時間が法定上限を超えていないか、協定等に不備は無いかを見直しておくことが重要と言えるでしょう。

 

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