じもとホールディングスが国に配当で国有化解消へ、優先株とは
2025/04/02 商事法務, 総会対応, 戦略法務, 会社法, 金融・証券・保険

はじめに
仙台銀行ときらやか銀行を傘下にもつ「じもとホールディングス」が株式配当を復活させる方針であることがわかりました。これにより事実上の国有化が解消されるとのことです。今回は優先株などの種類株式について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、仙台銀行と山形のきらやか銀行を傘下に持つ「じもとホールディングス」は、きらやか銀行が国から公的資金を受けた際に優先株を発行していたとされます。じもとホールディングスは2024年3月期の決算が過去最大の234億円の赤字となっており配当ができなかったとされ、配当がなされなかったことにより本来議決権が無かった国が保有する優先株に議決権が発生したものと見られます。同社の優先株は全体の63%におよび、議決権を獲得した国が事実上同社の管理化にあったとのことです。しかし今年3月期の決算では業績が9億円の黒字となり、配当が実現すれば事実上の国有化が解消される見通しとされております。
優先株とは
優先株とは、種類株式の一種で剰余金配当や残余財産分配に関して普通株よりも優先的な地位が与えられる株式を言います。一般的にはこれらの配当に関して優越的な分、議決権が制限されていることが多いと言えます。会社の運営に関する興味は希薄で、金銭的な利益のみを求めている投資家等を誘引することができます。また既存株式の議決権の希薄化を抑えつつ資金調達ができることからベンチャーキャピタル等のスタートアップなどで利用されることも多いと言われております。優先株は一般的に参加型優先株と非参加型優先株がありますが、前者は株主が一定の優先配当を受けた後、なお残余の剰余金がある場合にはさらに他の株主と同様に追加的に配当を受けることができるというものです。これに対して非参加型は残余の剰余金があった場合でも追加的配当は受けられない優先株を言います。日本では参加型優先株が多いと言われております。
優先株の導入手続き
それではどのようにして優先株を発行するのでしょうか。優先株も種類株式の一種であることから種類株式発行会社となる定款変更が必用となってきます。具体的には取締役会で種類株式を発行する旨の定款変更議案と株主総会の招集、株主総会の特別決議のよる承認、そして登記を行います。これにより優先株式(種類株式)の発行の準備ができたと言えます。次に実際に発行していくこととなりますが、これは募集株式発行の手続きを進めていくこととなります。募集株式の発行については株主割当と第三者割当がありますが、簡単には募集株式発行決定、引受申込みをしようとする者への通知、割当決定とその通知、払込、発行済株式数の増加と資本金額の増加についての登記をして完了となります。これは優先株以外の種類株式も同様です。
その他の種類株式
会社法では優先株以外にもいくつかの種類株式が規定されております(108条1項各号)。具体的には、剰余金の配当、残余財産の分配、議決権の制限、譲渡制限、取得請求権、取得条項、全部取得条項、拒否権、役員選任権の全9種類の種類株式が規定されております。剰余金や残余財産について優先的な地位を付与するのが上で取り上げた優先株ですが、逆に劣位な地位を付与するものが劣後株です。優先株には議決権を制限したものが多いことについては上でも触れました。なお公開会社では議決権制限株式は発行済株式数の2分の1を超えた場合、直ちに是正措置を取る必用があります。株式の譲渡に関して会社の承認を要する株式を譲渡制限株式と言います。発行する全ての株式に譲渡制限がついている会社が非公開会社です。譲渡制限株式は株主が株式を処分することが困難となるため代わりに取得請求権が付与されていることがあります。逆に会社から一定の事由の発生を条件に強制的に取得できるのが取得条項付株式です。また株主総会の特別決議によって取得することができるのが全部取得条項付種類株式です。これはM&Aの際のスクイーズアウトに利用されることがあります。拒否権付株式は株主総会や取締役会の決議事項を1株だけでも否決することができる強力なものです。敵対的買収対策に利用されることがあります。このように様々な種類株式があり、複合させたものも発行が可能です。
コメント
本件でじもとホールディングスに注入された公的資金は合計780億円とされ、そのうち480億円がきらやか銀行に注入されたとされており、じもとホールディングスの63%の議決権におよぶ優先株を国が保有しているとのことです。優先株は優先配当を受ける代わりに議決権が制限されることが多く、本件でも配当ができなかったことから国に議決権が発生している状態と言えます。配当の方針については今後金融庁と調整するとのことです。以上のように会社法では様々な種類の株式が規定されており、会社の状況に応じて柔軟な株式を発行することが可能です。種類株式を採用するにはその旨の定款変更が必用ですが、実際に発行するまでは要項だけ定めておくこともできます。どのような手続きでどのような株式を発行することができるのかを把握し、準備しておくことが重要と言えるでしょう。
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