郵便局解雇訴訟で原告が逆転敗訴、懲戒解雇の有効性
2025/03/27 労務法務, コンプライアンス, 労働法全般

はじめに
懲戒解雇は不当だとして、愛知県内の郵便局に努めていた男性が地位確認などを求めていた訴訟の控訴審で25日、名古屋高裁が一審判決を取消し原告男性が逆転敗訴していたことがわかりました。解雇は社会通念上相当とのことです。今回は懲戒解雇の有効性について見直していきます。
事案の概要
報道などによりますと、愛知県内の郵便局に努めていた元局員の男性は令和5年7月12日、通勤途中の地下鉄社内で小型カメラを仕込んだリュックサックを女性の足元に置き、スカート内を盗撮しようとしたとされます。男性は愛知県迷惑行為防止条例違反で逮捕されたものの翌日釈放され、被害女性との間でも示談が成立していたとのことです。しかし日本郵便は同年9月21日、男性を懲戒解雇とし、退職金を30%のみ支給したとされます。男性はその後不起訴処分となり、懲戒解雇は不当であるとして地位確認と未払賃金分の支払いを求め名古屋地裁に提訴しておりました。
懲戒解雇とは
懲戒解雇とは、懲戒処分の一種で、最も重い処分としての解雇を言います。懲戒処分は軽いものから、戒告、譴責、減給、出勤停止、降格、諭旨解雇、懲戒解雇が存在します。その中でも最も重いものということです。一般的に解雇は普通解雇、整理解雇、懲戒解雇が存在しますが、懲戒解雇は退職金の全部または一部が支給されないことや、離職票に記載される離職理由でも重責解雇となることから懲戒解雇されたことが知られるなど労働者にとっても極めて不利益が大きい解雇形態でもあります。そのため懲戒解雇として有効と認められる要件も厳格で、後々解雇した労働者から提訴されるなど会社側にとってもリスクが小さくなく、慎重に手続きを進める必用がある解雇と言えます。以下具体的に要件を見ていきます。
懲戒解雇の要件
懲戒解雇の要件は一般的に、(1)懲戒解雇の根拠規定が就業規則に記載されていること、(2)懲戒解雇に相当性が認められること、(3)適正な手続きが履践されていることと言われております。懲戒解雇も懲戒処分の一種であることから、どのような場合に処分されるのかを就業規則に明記する必用があります。会社の秩序を見出した場合になされる懲戒処分のうち、懲戒解雇はその最たるものだからです。そして懲戒解雇も解雇であることから、客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が認められなければなりません(労働契約法16条)。これは他の解雇と同様です。そして懲戒解雇は適正な手続きで行われる必用があります。この手続きで特に重要とされているのが弁明の機会の付与です。何が起こったのか、なぜどのようにして起こったのか、当事者に言い分を述べる機会を与え、慎重に事実確認をする必用があります。裁判例でもこの点は特に重視している傾向があります。
懲戒解雇に関する裁判例
従業員が犯罪行為を行ったことに対する懲戒解雇事例で解雇が有効と認められたものとして、信用金庫の従業員が集金の一部を横領し着服したもの(東京高裁平成元年3月16日)や、ワンマンバスの運転手が料金を横領し着服したもの(福岡地裁昭和60年4月30日)、模造刀を持って他人の住居に侵入し、傷害罪で罰金10万円の略式命令を受けたもの(横浜地裁横須賀支部昭和51年10月13日)などが挙げられます。また強制性交など性犯罪については一般的に解雇が有効と判断されることが多いとされております(大津地裁昭和58年4月25日等)。一方で懲戒解雇が無効と判断されたものとして、通勤手当約34万円を不正受給したもの(東京地裁平成18年2月7日)、鉄道会社の助役にが横領していたもの(東京地裁八王子支部平成15年6月9日)、酩酊して深夜に他人の家に侵入し罰金刑をうけたもの(最判昭和45年7月28日)、路上に放置されていた自転車を横領したもの(東京地裁昭和45年6月23日)などが挙げられます。無効とされた理由としては従業員の落ち度や不誠実はあるものの懲戒解雇は不相当とされたものや会社の事実調査や立証が不十分とされたものなどがあります。
コメント
本件で一審名古屋地裁は、事案が条例違反で軽微であったことや被害者との示談成立、不起訴処分、報道がなく社会に周知されていないこと、会社への影響が大きくないことなどから懲戒解雇の相当性を認めず無効としました。これに対し名古屋高裁は、電車内での盗撮行為を極めて卑劣な行為で社会的避難を免れないとし、また郵便事業の公共性、公益性の高さを考慮した上で懲戒解雇を社会通念上相当とし有効と認めました。以上のように懲戒解雇の有効性を争って訴訟に発展するケースは多いと言えますが、有効または無効となるかはかなり微妙な判断を要すると考えられます。一審の判決が二審で覆ることも少なくないと言えます。いずれにしても懲戒処分に際しては適正な手続きが重視されます。従業員の逮捕、即解雇といったことがないよう社内で周知しておくことが重要と言えるでしょう。
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