ユニチカが譲渡交渉不調なら繊維事業停止へ、事業譲渡とは
2025/02/10 商事法務, 戦略法務, 会社法, メーカー

はじめに
繊維メーカー大手の「ユニチカ」が祖業である繊維事業についての譲渡交渉が8月までにまとまらない場合、生産を停止することを明らかにしました。今回は会社法が規定する事業譲渡について見直していきます。
事案の概要
報道などによりますと、繊維大手のユニチカは近年の原材料の高騰やコスト上昇、市況の変化に伴う需要の減少、東南アジアを中心とする海外市場での価格競争の激化などから営業赤字が続き、繊維事業を縮小しつつ、高収益事業である高分子事業に事業の主軸をシフトしてきたとされます。事業の立て直しを図ってきた同社でも抜本的な収益改善には繋がらず、6年間で160億円の現預金が減少し、地域経済活性化支援機構による支援や主力銀行による430億円に上る債権放棄を受けていたとのことです。同社は7日、大阪市内で開催した臨時株主総会で、祖業である繊維事業について8月までに事業譲渡の交渉がまとまらなければ、来年9月を目処に順次生産を停止すると発表しました。従業員については雇用継続を前提に交渉を行い、生産停止となった場合にはグループ内で配置転換も含め検討するとしております。
事業譲渡とは
事業譲渡とは、会社の事業の全部または一部を他の会社に譲渡することを言います。より正確には、一定の事業目的のため組織化され、有機的一体として機能する財産の全部または重要な一部を譲渡し、これによって譲渡会社がその財産によって営んでいた事業的活動の全部または重要な一部を譲受人に受け継がせ、譲渡会社がその譲渡の限度で法律上当然に競業避止義務を負う結果となるものと言われております(最判昭和40年9月22日)。すこし複雑ですが、一定の範囲の事業を他社に受け継がせ、自社はその後一定の範囲で競業をしないというものです。競業避止義務とは、同一または隣接市区町村内で同一の事業・営業を行ってはならないというもので、原則として20年、特約で30年間この義務を負います(商法16条1項、2項)。なお学説上は事業譲渡の定義に関して、競業避止義務については不要とする見解も有力と言われております。
事業譲渡の手続き
事業譲渡の具体的な手続としては、当事会社間での交渉、基本合意、情報精査(デューデリジェンス)、取締役会決議、契約書の締結、株主への通知・公告、株主総会の特別決議による承認、財産の移転となります。場合によっては公取委への届出などが必用となる場合があります。事業譲渡は原則として株主総会の特別決議による承認が必用ですが(会社法467条1項)、譲渡する側の譲渡財産が総資産額の20%以下である場合、または譲受側が支払う対価が純資産額の20%以下の場合、当該会社での承認決議は省略できます(同条1項2号カッコ書き)。これを簡易事業譲渡と言います。また相手会社が自社の株式の90%以上保有している場合(特別支配株主)も承認決議を省略できます。略式事業譲渡と言います(468条1項)。なお事業譲渡に反対する株主は株式買取請求をすることができます(469条)。
吸収分割との違い
事業譲渡は会社の事業を一体的に他社に譲渡するといったものですが、その性質や機能は組織再編の一種である吸収分割と似ております。それではどこに違いがあるのでしょうか。まず株主総会の承認決議を要する点や反対株主の株式買取請求権が認められる点は同じです。しかし吸収分割は契約で定めた財産や債務が包括的に移転するのに対し、事業譲渡はあくまで構成される債権・債務が個別に移転します。そのためそれぞれ個別に財産・債権の譲渡、債務引受の手続が必用です。また吸収分割は組織再編の一種であることから債権者異議手続が用意されているのに対し、事業譲渡にはありません。そして吸収分割には無効の訴えが用意されておりますが(828条1項9号)、事業譲渡にはそのような制度はなく、一般原則に従って無効を主張することとなります。
コメント
ユニチカは先日の臨時株主総会で繊維事業を8月までに他社に事業譲渡する方針であり、交渉が不調の場合は来年9月から事業を停止するとしております。交渉がまとまった場合には、相手会社の譲渡財産の規模にもよりますが、株主への通知や株主総会での承認、財産や債務の移転が行われる見通しです。以上のように会社法では会社の財産移転の方法として事業譲渡や吸収分割を用意しております。それぞれ手続き等に違いがあり、メリット・デメリットがあります。事業再編を検討している場合は、どのような制度が利用できるのか、またそれぞれどのような手続、コスト、リスクなどがあるかを把握しつつ検討していくのが重要と言えるでしょう。
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