実態ない宗教法人の議事録偽造か、会社役員ら3人逮捕
2024/08/14   税務法務, M&A, コンプライアンス, 事業承継, 会社設立, 税法

はじめに
実態のない宗教法人の役員を不正に変更するため、役員会の議事録を偽造し法務局に提出したとして、京都府警は7月18日、有印私文書偽造・同行使の疑いで、会社役員の男ら3人を逮捕しました。
事件の背景に、税制優遇措置のある宗教法人を売買する目的があったと見られています。
事件の概要と共に、宗教法人の税制上の特徴、設立のハードルについて解説します。
会社役員と元司法書士が議事録偽造の疑い
今回逮捕されたのは、60歳の会社役員A氏と、59歳の会社員B氏、75歳の元司法書士C氏の3人です。
3人は2023年11月22日、氏名不詳者らと共謀のうえ、実際には開催されていない責任役員会の議事録を偽造し、「B氏が宗教法人の代表役員に就任した」とする変更登記申請書および議事録を京都地方法務局に提出した疑いがもたれています。さらに、議事録には「当時の役員から辞任の申し出があった」などとする虚偽の内容が記載されていたといいます。
問題となった宗教法人は近年は活動実態がなかったとされており、かつては寺院があった登記上の所在地は、現在は売却され有料駐車場になっているということです。
一連の登記手続きを通じ、税制優遇措置のある宗教法人を売買する目的があったとみて、京都府警では調べを進めています。
宗教法人の税制優遇措置
一般的に、「宗教法人は税制上の優遇措置を受けている」と言われることがあります。
①本来の宗教活動については“非収益事業”として非課税とされていること(法人税法第4条1項)、②“収益事業”に対しても19%の軽減税率が適用されていること(法人税法第66条3項)などが主な理由です。
宗教法人の税務においては、行っている事業が“収益事業”に該当するか否かがポイントになりますが、この点、国税庁では以下の34種類の事業に関し、継続的に事業場を設けている場合に“収益事業”に該当するとしています。
| 【34種の収益事業】
 | 
この点、「お守り、お札、おみくじ等の頒布は非収益事業」、「一般の物品販売業者においても販売されているような性質の物品(線香、ろうそく、供花、数珠、絵はがき、写真帳、カレンダー、メダル、キーホルダー、杯、杓子、箸、陶器等)の販売は収益事業」といった線引きがなされています。
※ただし、線香やろうそく、供花等の頒布も、専ら参詣に当たって神前、仏前等にささげるためのものは、収益事業には該当しません。
ポイントとして、販売する物品の売価と仕入原価との関係からみて、その差額が通常の物品販売業における売買利潤ではなく、実質的な喜捨金と認められるか否かが判断基準となります。
宗教法人設立のハードル
このように、税制上、一定の優遇措置を受けられる宗教法人ですが、その設立は簡単ではありません。
上述の優遇措置があるがゆえに、所轄官庁としては、「優遇措置目的で表向きのみ宗教団体を名乗る営利団体」の登場を防止しなければならないためです。
そのため、宗教法人を設立しようとした場合、概ね3年ほどの期間をかけて、所轄官庁より、「宗教団体としての活動実態(教義の内容、それに基づく活動、団体固有の教師の存在、信者数、信者の教化育成状況その他)」を慎重に審査されることになります。
また、公衆的な礼拝施設を所有していること、団体運営能力があること(規約・代表機関・総会の設置、運営に必要な書類の作成と備付)なども要件として求められます。
こうした理由で、宗教法人の設立は難易度が高く、また時間がかかると言われています。
コメント
メリットが大きい一方で、設立までのハードルが高い宗教法人。
近年、インターネットを中心に、その宗教法人を「税制優遇」を謳い文句に脱法的に売買する動きも活発化しているといいます。中には、数千万円から数億円が提示されるケースもあり、法人格の不正取得や脱税、犯罪収益の移転などの違法行為につながるおそれがあると、文化庁では注意を呼びかけています。
2021年12月31日時点で、国および都道府県が宗教法人格を認証した団体は179,952団体。そのうち、宗教活動を停⽌し、法⼈格のみが残存している「不活動宗教法人」も一定数含まれているとされています。まずは、行政として、不活動宗教法人の実態の把握から始める必要がありそうです。
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 登島和弘 氏(新企業法務倶楽部 代表取締役…企業法務歴33年)
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 鈴木 景 弁護士(弁護士法人GVA法律事務所 パートナー/第二東京弁護士会所属)
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