マイナポータル利用規約に消費者契約法違反(無効条項)疑い
2024/07/04 契約法務, 情報セキュリティ, 消費者契約法

はじめに
マイナンバーカード取得者向けのサイト「マイナポータル」の利用規約に消費者契約法に抵触する疑いのある条項が含まれていることがわかりました。デジタル庁は問題の条項を修正する方針とのことです。今回は消費者契約法の無効条項について見直していきます。
事案の概要
マイナポータル利用規約26条では、サイトを利用するに伴って利用者本人や第三者が損害を受けた場合、「デジタル庁の故意または重過失によるものである場合を除き、デジタル庁は責任を負わない」との免責条項があります。また28条2項では、「マイナポータルの利用に関連してデジタル庁と利用者間に生ずるすべての訴訟については、東京地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所と定めます」としております。名古屋市のNPO法人「消費者被害防止ネットワーク東海」がこれらの条項が消費者契約法に違反するとしてデジタル庁に対し修正をや削除を申し入れていたとされます。
消費者契約法の無効条項
消費者契約法では、消費者と事業者との間の情報力や交渉力の格差に鑑みて、事業者の行為により消費者が誤認または困惑して契約をしたなどの場合に取り消すことができたり、事業者の損害賠償責任を免除する条項や、消費者の利益を不当に害することとなる条項を無効とし、国民生活の安定や国民経済の健全な発展に寄与するとしております(1条)。そして無効な条項として、(1)事業者の損害賠償の責任を免除する条項等(8条)、(2)消費者の解除権を放棄させる条項等(8条の2)、(3)事業者に対し後見開始の審判等による解除権を付与する条項(8条の3)、(4)消費者が支払う損害賠償の額を予定する条項等(9条)、(5)消費者の利益を一方的に害する条項(10条)が挙げられます。8条1項では、事業者の故意または重過失による損害賠償責任の一部を免除したり、責任の限度を決定する権限を事業者に付与する条項が無効とされております。
サルベージ条項
サルベージ条項とは、契約書や利用規約の中に、免責の範囲が不明確な条項をあえて置くことで、消費者からの責任追求を回避する根拠として事業者らが責任を限定しようとする条項を言うとされます。「法律上許される限り、当社は賠償責任を負わない」といったものや「消費者が当社に支払った対価の累計額を超えて賠償する責任を負わない」といったものが典型例と言えます。上記のように消費者契約法では軽過失の場合のみ免責条項は有効ですが、このような条項は責任の範囲などが抽象的で不明確なものとなっており、一般消費者には理解が困難で、責任追及を断念してしまうことも有りえます。そこで令和4年改正で、賠償請求を困難にする、軽過失による行為のみ適用されることを明らかにしていない不明確な免責条項は無効とされております(8条3項)。
無効条項に対するペナルティ
上記のように不当または無効な条項は無効となります。しかしこのような条項を利用規約や約款、契約に盛り込んでいたとしてもそれに対して特に罰則や行政処分が規定されているわけではありません。しかし適格消費者団体は事業者に対してこのような不当条項の差止請求をすることができます(12条)。また不当条項の差止が求められている事業者については、随時消費者庁のウェブサイトや適格消費者団体のウェブサイトで公表されることとなります。なお適格消費者団体とは、不当な勧誘や不当な契約条項、不当な表示などについて事業者に是正を求める差止請求を行う適格を有するとして内閣総理大臣に認定を受けた団体を言います。
コメント
本件で問題となったのは、マイナポータルの利用規約にある、「故意又は重過失によるものである場合を除き、デジタル庁は責任を負わない」という条項と、「すべての訴訟については、東京地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所と定めます」とする条項です。前者については軽過失による場合の免責条項であることから直ちに消費者契約法に抵触するとは断言できませんが、故意または重過失以外はすべて免責するとされ、非常に包括的で広いものとなっており、消費者保護の観点から望ましいとは言いにくいものとなっております。また後者については、全国どこに住んでいる人もすべて東京地裁でしか提訴できないとするもので、消費者の利益を一方的に害するものとして無効とされる可能性が高いと言えます。以上のように現行の消費者契約法では消費者に一方的に不利となるような条項は無効とされます。またあえて不明確・抽象的にした免責条項も無効となっております。自社の約款などを今一度見直しておくことが重要と言えるでしょう。
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