スーパー従業員の男性死亡で遺族が提訴、アスベストと労災について
2024/06/28 労務法務, 訴訟対応, 労働法全般, 小売

はじめに
中皮腫で死亡したスーパーマーケットの従業員に労災が認められなかったのは違法であるとして、遺族が大阪地裁に提訴していたことがわかりました。今回はアスベストと労災について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、スーパー「ダイエー」の従業員であった男性(当時61)は1983~2005年、大阪市や堺市などの7店舗の青果売り場のマネジャーとして勤務していたとされます。原告側の主張では、販売促進用の広告を天井にねじで固定する作業をした際に、天井材から発散したアスベストにばく露し、退職後の2020年5月に中皮腫で死亡したとのことです。男性の妻は労災申請したものの、労働基準監督署は男性がアスベストを吸い込む環境で働いていたことが客観的に確認できないとして労災を認めなかったとされます。
アスベストと労災
アスベスト(石綿)の粉塵を吸い込むことによって中皮腫や肺がんなどの深刻な疾患を発症することがあることは広く知られております。アスベストばく露作業に従事していたことが原因でこれらの疾病を発症したと認められた場合、労災保険給付、または特別遺族給付金が支給されることとなります。対象となる疾病は、中皮腫や肺がんの他に、石綿肺、良性石綿胸水、びまん性胸膜肥厚となっております。また原因となる「石綿ばく露作業」とは、石綿鉱山やその付属施設でアスベストを含有する鉱石等の採掘、倉庫内などで袋詰、アスベスト製品の製造等、アスベスト吹付け、アスベスト製品の加工、アスベストが建材として使用されている建物の補修や解体、アスベストが用いられている船舶や車両の補修や解体、アスベストを不純物として含有する鉱物などの取り扱い業となっております。
労災認定要件
中皮腫などアスベストによる疾病は、一般的に長い潜伏期間を経て発症することが知られております。そのため労災認定も簡単ではないと言えます。厚労省が公表しているアスベストによる労災認定要件では、中皮腫の場合、(1)胸部X線写真でじん肺法に定める区分(1型~4型)の1型以上の石綿肺所見があること、(2)石綿ばく露作業従事期間が1年以上あることのいずれかに該当することとされております。さらに最初のアスベストばく露作業を開始したときから10年未満で発症したものは除くとされます。肺がんの場合は、(1)石綿肺所見がある、(2)胸膜プラーク所見があり、石綿ばく露作業従事期間が10年以上、(3)国範囲胸膜プラーク所見がある、(4)石綿小体または石綿繊維の所見があり石綿ばく露作業従事期間が1年以上、(5)びまん性胸膜肥厚に併発、(6)特定3作業に従事し石綿ばく露作業従事期間5年以上とされます。特定3作業とは石綿紡織製品製造、石綿セメント製品製造、石綿吹付け作業とのことです。
アスベスト被害の救済
アスベスト被害の救済手段としては、上記のように労災保険給付の他、石綿救済法による給付、建設アスベスト給付金などの給付と、場合によっては企業や国に対する損害賠償請求が考えられます。石綿救済法は、アスベストによる健康被害が、業務に起因して発症した場合は労災保険の対象となりますが、それ以外の被害者を救済するために制定された法制度です。これにより労災保険の対象とならない周辺住民などに対しても救済給付金が支払われます。また同法は改正され令和4年6月17日から改正法が施行されており、特別遺族給付金の請求期限も令和14年3月27日まで延長されております。また支給対象も平成28年3月26日までに亡くなった労働者の遺族から令和8年3月26日までに亡くなった労働者の遺族に拡大されております。
コメント
原告側の主張によりますと、男性は1983年~2005年にわたって店舗で販売促進用広告を天井にねじで固定する作業をしていた際にアスベストにばく露したとしております。中皮腫での労災認定については、上でも触れたようにばく露作業従事期間が1年以上で、最初の作業開始から10年以上経過後に発症したことを要します。また工場や建設業など、いわゆるアスベスト被害の典型的な業務形態ではなかったことから、店舗での業務従事期間でのアスベスト粉塵のばく露などが争点となってくるものと考えられます。以上のようにアスベストによる従業員の健康被害が発生した場合、労災や損害賠償の対象となる場合があります。事業場などの建材等にアスベストが使用されていないか、従業員がそれらの粉塵を吸い込んでいないか、今一度確認しなおしておくことが重要と言えるでしょう。
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