倉敷労基署が最低賃金法違反で建設会社を書類送検、賃金規制について
2024/06/27 労務法務, コンプライアンス, 労働法全般, 刑事法, 建設

はじめに
倉敷労働基準監督署が24日、倉敷市の建設会社と経営者を最低賃金法違反の疑いで書類送検していたことがわかりました。3ヶ月分の賃金が支払われていたなかったとのことです。今回は賃金に関する規制について見直していきます。
事案の概要
報道などによりますと、岡山県倉敷市の建設業「アクセル」は2022年8月から10月までの3ヶ月分の給与約95万円を同社の50代の男性社員に規定の支払日に最低賃金以上の額で支払わなかった疑いがあるとされます。県労基署は昨年3月に同社員から相談を受け、会社への聞き取り調査などを行い、未払の事実を特定し、同社と経営者を岡山地方検察庁に書類送検したとのことです。労基署は経営者の認否については公表していないとされます。
最低賃金制度
最低賃金制度とは、国が賃金の最低限度を定め、使用者はその最低賃金額以上の賃金を支払わなければならないとする制度を言います(最低賃金法4条1項)。そしてこの最低賃金の適用を受ける労働者と使用者との間で最低賃金に満たない賃金を労働契約で定めたとしても、その部分については無効とされ、無効となった部分については最低賃金と同額を定めたものとみなされることとなります(同2項)。最低賃金未満の賃金しか支払わなかった場合は、最低賃金との差額を支払わなくてはならず、また地域別最低賃金以上の賃金を支払わなかった場合には罰則として60万円以下の罰金が定められております。なお最低賃金は労働者の代表、公益代表、使用者の代表それぞれ同数の委員で構成される最低賃金審議会で議論され、都道府県労働局長が決定することとなっております。
労基法による規制
労働基準法24条によりますと、「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない」とし、「賃金は、毎月一回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない」としております。この規定に含まれる「通貨払の原則」「直接払の原則」「全額払の原則」「毎月払の原則」「一定期日払の原則」がいわゆる賃金支払五原則と呼ばれる原則です。賃金は法令や動労協約で定めたらている場合を除き原則として現金で支払われる必要があります。そして従業員本人に直接支払われる必要があり、家族や親族その他第三者に支払うことはできません。例外的に従業員の同意があれば口座振込は可能です。賃金は全額支払われる必要があり、法令で定められた保険料や税金等以外を差し引いたり、貸付金の相殺などは許されません。また毎月1回以上、特定の日を定めて支払う必要があります。これらに違反した場合は30万円以下の罰金となっております。また時間外労働や休日労働、深夜労働には割増賃金も定められております。
同一労働同一賃金の原則
同一労働同一賃金の原則とは、同じ労働を行っているにもかかわらず、雇用形態が異なるという理由だけで不合理な格差を生じさせてはならないとする考え方を言います(パートタイム・有期雇用労働法8条)。同法で禁止される待遇格差の対象は賃金だけでなく、休暇や福利厚生、教育制度も含まれます。ここで禁止されるのはあくまで「不合理」な待遇差であって、そこに合理的な理由がある場合は違法ではないと言えます。不合理かどうかについては、各手当等の趣旨や目的、有期雇用と無期雇用での職務内容の差異、配置変更の範囲の差異その他の事情などを総合的に考慮して判断するとされております(最判平成30年6月1日)。
コメント
本件でアクセル社は2022年8月から3ヶ月分について、男性従業員に最低賃金未満の賃金しか支払っていなかった疑いが持たれているとされます。上でも触れたように最低賃金法に違反する場合は罰則が適用されることとなります。本来の賃金を支払えなかった理由は不明ですが、経営不振等により資金繰りが困難となった場合でも、従業員の賃金は法令で厳格に保護されております。以前にも取り上げましたが、給与債権については民法で先取特権が認められており、現行民事執行法では訴訟によらずに実現することも可能です。賃金の支払いを遅延していた場合、従業員によって会社財産が差し押さえられるといった事態も有りえます。自社の従業員への賃金や勤怠管理に問題はないか、今一度確認し直しておくことが重要と言えるでしょう。
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