日本郵便契約社員が敗訴、待遇格差について
2024/06/03 労務法務, 労働法全般

はじめに
日本郵便の契約社員3人が、有給の病気休暇などに正社員との格差があるのは不当として損害賠償を求めていた訴訟で30日、東京地裁が請求を棄却していたことがわかりました。不合理な相違とは言えないとのことです。今回は正規と非正規の待遇格差について見直していきます。
事案の概要
報道などによりますと、日本郵便では正社員に有給の病気休暇を少なくとも連続で90日まで取得できるとされます。一方で契約社員の場合は当該休暇が10日しか与えられていないとのことです。これに対し同社契約社員3人が不当な格差であるとして計約340万円の損害賠償を求め東京地裁に提訴しておりました。同社の待遇格差を巡っては、これまでも全国で訴訟が提起されており、2020年10月には最高裁で5項目の手当格差を不合理と判断されております。また同年2月には原告159人による同様の待遇格差を巡る訴訟が提起され、昨年2023年7月に和解が成立しております。
同一労働同一賃金の原則
同一労働同一賃金の原則は、同じ労働を行っているにもかかわらず、雇用形態が異なるというだけで不合理な待遇格差を設けてはいけないという原則を言います。以前は労働契約法20条で規定されておりましたが、2021年の法改正により「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」(パートタイム・有期雇用労働法)に改められております。同法8条によりますと、「事業主は、その雇用する短時間・有期雇用労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する通常の労働者の待遇との間において、当該短時間・有期雇用労働者及び通常の労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならない」としております。
同一労働同一賃金の原則に関して平成30年6月1日に2つの最高裁判決が出されました。1つは運送会社における有期雇用と正社員との間の待遇格差(ハマキョウレックス事件)、もう1つは定年後再雇用と正社員との待遇格差を争ったものです(長澤運輸事件)。これらの最高裁判決ではおおまかに、旧労働契約法20条は非正規・有期労働者と正社員との間には様々な労働条件の違いがあることから、それに応じて待遇の差異を設けること自体は禁止されていないとし、その相違が不合理なものであってはならないとしております。そしてその相違は(1)労働者の業務の内容および業務に伴う責任の程度、(2)職務の内容および配置の変更の範囲、(3)その他の事情を考慮して合理性を判断するとしております。そして長澤運輸事件では、定年後に再雇用されたという事情は「その他の事情」に該当するとしております。その上で、個々の賃金項目に関して両者の額の違いのみを比較するのではなく、その趣旨や他の賃金項目の有無を踏まえたものであるときはその事情も考慮するとし、精勤手当と超勤手当について不合理としました。またハマキョウレックス事件では転居を伴う配転が予定されていることから、正社員に住宅手当がある点は不合理ではないとしつつ、皆勤手当については不合理としました。
日本郵便事件判決
日本郵便事件最高裁判決(最判令和2年10月15日)についてもここで触れておきます。この判決でも賃金格差の不合理性を判断するにあたり、両者の賃金の総額を比較するのみでなく、各賃金項目の趣旨を個別に考慮すべきとし、(1)年末年始休暇については多くの労働者が休日として過ごしている年末年始に業務に従事したことに対する対価であることが趣旨であるとして、契約社員にも同様に当てはまるとし、相違は不合理としました。また(2)祝日給についてもほぼ同様の理由で相違は不合理としております。また生活保障や福利厚生を図り、扶養親族のある者の生活設計等を容易にさせ継続的な雇用を確保する趣旨である(3)扶養手当や年次有給休暇等以外で労働から離れる機会を与え、心身の回復を図る趣旨である(4)夏季冬季休暇、死傷病療養に専念させることを通じて継続的雇用を確保する趣旨である(5)病気休暇についても相違は不合理としております。
はじめに
本件で問題となったのは有給の病気休暇の日数です。正社員の場合は90日のところ、契約社員は10日しか与えられていないとされます。これについて東京地裁は、正社員と契約社員では継続的な勤務への期待の程度に大きな相違があるとし、不合理な相違とは言えないとして請求を棄却しました。以上のように正規・非正規では待遇などについて不合理な相違を設けてはならないとされております。しかし両者には当然、業務内容や責任、配置転換の有無など様々な違いがあります。そこで待遇に相違を設ける場合は、その趣旨や目的から片方にだけ当てはまるなど合理的な説明ができるようにしておく必要があります。自社で非正規・有期雇用労働者を雇用している場合はその待遇について問題がないかを精査しておくことが重要と言えるでしょう。
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