兵庫県警が特別警戒対策室を設置、総会屋規制について
2024/05/16   総会対応, コンプライアンス, 会社法

はじめに

 今年も定時株主総会の季節が来ました。これに伴い兵庫県警は12日、総会屋の企業に対する不当要求を防止するため「株主総会特別警戒対策室」を設置しました。330人体制とのことです。今回は会社法の総会屋規制について見直していきます。

 

事案の概要

 報道などによりますと、多くの企業が5月から6月に定時株主総会を開くことから、兵庫県警は特別警戒対策室を設置しました。対策室は組織犯罪対策局長をトップとし、およそ330人体制で総会屋などの動向の把握や情報収集を行うとともに、企業から要請があった場合には株主総会会場の警備などに当たるとされます。兵庫県警は5月には9社、6月には73社の株主総会で警戒に当たる予定とされ、総会屋から接触があった際には通報してほしいと呼びかけております。なお愛知県警など他の都道府県警察も同様に対策室設置の動きが見られております。

 

総会屋とは

 一般に総会屋とは、上場企業等の株式を取得し、株主総会の議事運営を妨害するために株主権を行使し、会社に金品などを要求する者を言います。総会屋は反社会勢力の資金源ともなっており、株主総会を平穏に乗り切りたい経営陣の心理につけ込んだ行為とも言えます。株主が多い大規模会社では決議の際に正確に数を数えず賛成多数や満場一致などとして決議を取ることも慣例化していることが多く、このような会社では総会屋にとって妨害がしやすいと言われております。多くの上場企業で定時株主総会が6月に集中するのは、同時に多くの企業の株主総会に出席できないようにすることによって、総会屋の活動を抑制するためとされます。

 

会社法による利益供与規制

 会社法120条1項では、「株式会社は、何人に対しても、株主の権利…の行使に関し、財産上の利益の供与…をしてはならない」としております。これは利益供与と呼ばれ、株主総会の議事進行を妨害しないよう総会屋に金品を提供するといった場合が典型例ですが、これは総会屋だけでなく、一般の株主に対して利益を提供した場合も規制の対象となります。違反した場合は罰則として3年以下の懲役または300万円以下の罰金が規定されており、利益供与を受けた者も同様とされます(会社法970条1項、2項)。また利益供与を受けた者は会社に対し返還する義務を負い(120条3項)、関与した役員も連帯して会社に支払う義務を負うとされます(同4項)。この責任は直接関与した取締役は無過失責任とされますが、それ以外の取締役は自身に過失がなかったことを証明した場合は免責されます(同但書)。

 

利益供与の要件

(1)供与の相手

 利益供与の要件についてはこれまでも取り上げてきましたが、今回も簡単に触れていきます。会社法の条文では「何人にたいしても」と規定されております。これは「株主」に限らないということです。株式を取得せずに会社に金品等を要求してくる総会屋もいることからこのような規定になったと言われております。また第三者を介在させた場合も規制できるようになっております。

(2)株主の権利の行使に関して

 利益供与は株主の権利の行使に関して行われることが必要です。会社法では様々な「株主の権利」が規定されており、剰余金配当請求や残余財産分配請求といったいわゆる自益権と、株主総会での議決権や提案権、質問権、株主代表訴訟提起権といった共益権も含まれます。そして好ましくない株主から株式を買い取る行為も株式買取請求権としてこの株主の権利に含まれるとされております(最判平成18年4月10日)。

(3)財産上の利益

 利益供与で提供される利益は会社または子会社の計算で行われる必要があります。これは形式的な名義ではなく、実質的に損益がそれらの会社に帰属しているかによって判断されると言われております(東京地裁平成11年9月8日)。取締役が会社のお金ではなく、自分のポケットマネーで供与した場合は該当しないこととなりますが、その分を会社が交際費などといった名目で補填していれば該当することとなります。なお利益の提供が株主の権利行使に影響を及ぼさない正当な目的に基づき、その額も社会通念上許容できる範囲で、会社の財産的基礎に影響を与えないものである場合は例外的に適法とした裁判例も存在します(東京地裁平成19年12月6日)。

 

コメント

 警察庁の発表では、総会屋の数は平成26年時点では約250人、その後は毎年数を減らし昨年令和5年時点では150人にまで減少したとされます。相次ぐ法改正により総会屋の数は大幅に減少しており、今後も減少傾向は続くと見られます。しかし依然として存在しなくなったわけではなく、また上でも触れたように利益供与規制は総会屋以外の者に対しても適用されます。不祥事が発生した際に、株主総会での追求を控えてもらうといった理由で大株主に何らかの利益を提供するといった場合も同様です。これらを踏まえた上で、株主総会では役員と株主の席の間に十分な距離を置いたり、ワイヤレスマイクではなくスタンドマイクを使用する、事前に警察に照会しておくなど総会屋対策を事前に検討して講じておくことが重要と言えるでしょう。

 

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