コーエーテクモゲームス、「信長の野望」などに関する著作権侵害等でシンガポール法人を提訴
2024/04/16   知財・ライセンス, 訴訟対応, 著作権法, 商標法, エンターテイメント

『信長の野望』などの開発会社がシンガポール法人を提訴


人気ゲーム『信長の野望』や『太閤立志伝』などの音楽やゲーム画像、会社の商標が、許諾なしにアプリのWeb広告に使われ、著作権等を侵害されたとして、コーエーテクモゲームスは4月8日、シンガポールのアプリ開発企業を相手取り、利用の差し止めなどを求める裁判を提起しました。

 

Web広告での無断使用に再三の警告も改善されず


株式会社コーエーテクモゲームスは、『信長の野望』や『太閤立志伝』シリーズ、『三國無双』や『戦国無双』に代表される無双シリーズ、『Winning Post』シリーズなどの開発・販売で知られる大手ゲーム会社です。

一方、今回、コーエーテクモゲームスに提訴されたYOUZU PTE. LTD(以下「YOUZU」)は、シンガポールに所在する法人で、『成り上がり 華と武の戦国』、『インフィニティ キングダム-諸王の戦争【アイケイ】』、『ダイナスティ・オリジン(Dynasty Origins)』などのスマートフォン向けゲームアプリを配信・運営しています。

コーエーテクモゲームスの発表によると、YOUZUはゲームアプリのWeb広告に、『信長の野望』や『太閤立志伝』の音楽・ゲーム画像を無断で使用し、同社の著作権等を侵害し続けているといいます。

これまでにも、コーエーテクモゲームスはYOUZUに対し、複数回にわたり警告状を発送していたそうですが、まったく改善は見られず。さらに、コーエーテクモゲームス社の商標の無断使用も確認され、ユーザーから見ると、あたかもYOUZUのアプリにコーエーテクモゲームスが関連していると誤認させる表記がされていたということです。

コーエーテクモゲームスは、一連の行為について「非常に悪質」と判断し、著作権侵害等の行為の差止及びこれらの行為から生じた損害の賠償を求め、4月8日付で東京地方裁判所に訴訟提起しました。

コーエーテクモゲームスは、今後も著作権などの知的財産権の侵害行為が認められた場合には、国内外を問わず厳格に対処していく方針とのことです。

 

コーエーテクモゲームス関連の他の訴訟


ゲームソフトは知的財産の塊と言われています。ゲームのプログラム自体はもちろんのこと、プログラムによって出力される映像、イラスト・背景・キャラクター、BGM・テーマソング、原作・セリフなどに対し、著作権をはじめとする知的財産権が発生しています。

それだけに、ゲームソフトの知的財産権をめぐる訴訟は少なくありません。今回、訴訟を提起したコーエーテクモゲームスも、過去に複数の企業と訴訟で戦っています。

 

ギャロップレーサー訴訟(最高裁 2004年2月13日判決)


コーエーテクモゲームスの前身であるテクモは、競馬シミュレーションゲーム、「ギャロップレーサー」および「ギャロップレーサー2」に登場する競走馬に関し、馬主らに競走馬の名称について使用許諾を得ぬまま、ゲーム中で使用していました。それに対し、馬主らが、物のパブリシティ権(著名人の肖像や氏名等の持つ顧客吸引力から生じる経済的価値を排他的に利用する権利)の侵害を主張し、ゲームの制作・販売・貸渡し等の差止と不法行為に基づく損害賠償を求めて提訴しました。訴訟は、一審・二審は馬主側が勝訴。名古屋高等裁判所は、

・著名人の名称等と同様の顧客吸引力を有する競走馬の名称等には経済的価値が認められ、当該競走馬の所有者は、競走馬の名称等が有する経済的価値を独占的に支配する無体財産権(物のパブリシティ権)を有すること
・これを侵害した場合には不法行為が成立すること

などを認めつつ、顧客吸引力という観点から、「中央競馬のG1勝利馬」の名称等に限り、そのパブリシティ権を認め、コーエーに損害賠償の支払いを命じました(ゲームソフトの制作、販売、貸渡し等の差止めは否定)。

しかし、最高裁判所は、競走馬の名称についてはパブリシティ権は認められないとして、馬主側の主張を退けました。理由としては、

(1)有体物に対する権利である「所有権」と無体物の「財産権」は全く別物で、第三者が競走馬の名称等が有する顧客吸引力などの“無体物の面における経済的価値”を利用したとしても、それにより競走馬の所有権を侵害するものではないこと
(2)物の名称の使用などについては、既に商標法・著作権法・不正競争防止法等の法律が一定要件下で保護しており、法令等の根拠もないままに、これらの法律による保護とは別に排他的な権利を認めることはできないこと

などを挙げています。

なお、本判決以降、「物のパブリシティ権」は否定される傾向にあります。

 

対カプコン、無双シリーズ訴訟(知財高裁 2019年9月11日判決)


カプコンの保有している特許権2件(①家庭用ゲーム機などのシステム作動方法に関する特許権、②ゲーム進行に際して遊戯者の操作によりゲームの進行に参加できる遊戯装置についての特許権)を、コーエーテクモが制作販売している「真・三國無双」「戦国無双」「零」の各シリーズのゲームが侵害しているとして、特許権の侵害に基づく損害賠償を求めて、カプコンが東京地方裁判所に訴訟提起した事件です。

訴訟では、主に、(1)直接侵害・均等侵害・間接侵害の成否と(2)特許権の無効理由の有無が争われました。

●直接侵害
特許発明の技術的範囲の構成要件を全て満たす場合に成立
 
●均等侵害
特許発明の技術的範囲の構成要件を満たさないが、実質的には特許発明と同一の発明を実施していると評価できる場合に成立
 
●間接侵害
直接侵害ではないが、特許権侵害を誘発する可能性が高いと思われる行為が行われている場合に成立


一審では、①の特許権に関し、出願前に公知となっているゲーム機のゲームソフトに基づく進歩性違反がある(無効理由がある)として、①に対する損害賠償請求は認めなかった一方、②の特許権に対しては、その対象がプレイステーション2であること、問題となったゲームソフトがプレイステーション2用のものであることから、専用部品等の製造・販売による間接侵害を認め、コーエーテクモゲームスに対し、約500万円の損害賠償を命じました。

しかし、控訴審である知財高等裁判所では、①の特許権について無効理由を有しないとしたうえで、①と②の両方の特許権について、専用部品等の製造・販売による間接侵害を認め、コーエーテクモゲームスに約1億4400万円の損害賠償を命じました(後日の最高裁判所の上告棄却により、この判決は確定しています)。

 

コメント


ゲームの知的財産権をめぐっては、過去にも、『ときめきメモリアル』や、『釣り★スタ』、『クラッシュオブクラン』、『荒野行動』、『マリオカート』、『白猫プロジェクト』、『ウマ娘 プリティーダービー』など、有名ゲームをめぐる訴訟が多数提起されています。

今回のように、人気ゲームの認知度の高さにただ乗りして自社のビジネスにつなげたいという思惑も一部ありますし、ゲーム会社間でも、権利関係を明確にしておかないと、自社が逆に権利侵害を主張される側に回りかねないといった事情もあります。

訴訟の結果によっては、ゲームソフトの回収やサービス終了などにも追い込まれるゲーム訴訟。コーエーテクモゲームスとYOUZUの訴訟の趨勢からも目が離せません。

 

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