木工用ドリル大手 スターエムに課徴金納付命令、不当な取引制限の要件について
2024/03/29   コンプライアンス, 行政対応, 独禁法対応, 独占禁止法, メーカー

はじめに

 木工用ドリルの販売価格を不正に取り決めるカルテルを結んだとして、公取委は28日、兵庫県内の2社に課徴金納付命令を出していたことがわかりました。排除措置命令も出しているとのことです。今回は独禁法が規制する不当な取引制限の要件について見直していきます。

 

事案の概要

 報道などによりますと、兵庫県内の工具製造販売会社「スターエム」(三木市)と「大西工業」(加古川市)は遅くとも令和元年9月26日までに特定木工用ドリルの仕切価格を12%を目途に引き上げることを合意、その後も遅くとも令和4年10月7日までに特定木工用ドリルの仕切価格を10%を目途に引き上がることを合意していたとされます。木工用ドリル製造販売における国内シェアはスターエムが1位で両社でほぼ国内供給を独占しているとのことです。公取委は昨年9月5日に両社に立入検査をしており、独禁法が禁止する不当な取引制限に当たるとしてスターエムに8572万円、大西工業に824万円の課徴金納付命令と排除措置命令を出しました。

 

不当な取引制限の禁止

 独禁法2条6項によりますと、「事業者が、契約、協定その他何らの名義をもってするかを問わず、他の事業者と共同して対価を決定し、維持し、若しくは引き上げ、又は数量、技術、製品、設備若しくは取引の相手方を制限する等相互にその事業活動を拘束し、又は遂行することにより、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限する」ことを不当な取引制限として禁止しております(3条)。いわゆるカルテルや入札談合が典型例と言えます。違反した場合には、違反行為を排除するために必要な措置を命ずる排除措置命令(7条)と課徴金納付命令の対象となっております(7条の2)。課徴金の額は違反行為の実行期間における売上額等の10%となっており、その額が100万円未満であるときは免除となります。

 

不当な取引制限の要件

(1)意思の連絡と相互拘束

 不当な取引制限の行為要件として「意思の連絡」と「相互拘束」が挙げられます。条文上は「他の事業者と共同して対価を決定し」「相互にその事業活動を拘束し、または遂行する」とあります。ここから2つの要件が導かれております。「意思の連絡」は事業者同士の積極的な合意だけでなく、黙示的なものも含まれると言われております。裁判例では、意思の連絡とは、複数事業者間で相互に同内容または同種の対価の引き上げを実施することを認識ないし予測し、これと歩調をそろえる意思があることとされ(東芝ケミカル事件、東京高裁平成7年9月25日)、かなり広い概念であることがわかります。「相互拘束」は複数の事業者が、なんらかの反競争効果の実現のために互いの行動を調整し合う関係が全体として成立していることと言われております。

(2)一定の取引分野

 不当な取引制限における「一定の取引分野」とはいわゆる「市場」を意味し、その範囲は原則的には需要者から見た代替性の観点から画されることとなります。必要に応じて供給者側にとっての代替性も考慮されることとなります。代替性というのは、A商品が値上げされたら代わりにB商品を買うといった関係が成り立つ状況を言います。そしてこの市場は取引の対象、地域、段階、相手方の範囲などにより重層的に画定されることとなると言われております。

(3)競争の実質的制限

 そして「競争の実質的制限」とは、競争自体が減少し特定の事業者または事業者集団がその意思である程度自由に、価格、品質、数量、その他各般の条件を左右することによって市場を支配できる状態、またはそのような状態が現れようとしている状況を言うとされております(東京高裁昭和26年9月19日)。競争を回避し、市場における製品の価格を高止まりさせることができる状態ということです。

 

意思の連絡の立証

 それでは「意思の連絡」はどのように立証されていくのでしょうか。この点、①事前の連絡交渉、②その内容、③行動の一致という3つの要素に分類して間接証拠を重ねていくと言われております。上でも触れた東芝ケミカル事件の高裁判決でも、「特定の事業者が、他の事業者との間で対価の引き上げに関する情報交換をして、同一またはこれに準ずる行動に出たような場合には、右行動が他の事業者との行動と無関係に取引市場における対価の競争に耐えうるとの独自の判断によって行われたことを示す特段の事情が認められない限り、これらの事業者間に協調的行動を取ることを期待し合う関係があり、右の意思の連絡があるものと推認されるのもやむを得ない」としております。

 

コメント

 本件でスターエムと大西工業は、2社の役員級、営業責任者級の者による会合を開催するなどして木工用ドリルの仕切価格を10~12%を目途に引き上げることを合意した上で、販売業者に対して新たな仕切価格を掲載した価格表等を配布するなどして通知し、実効性を確保するために2社で通知の時期等についても情報交換を行うなどしていたとされます。意思の連絡と相互拘束のもとで国内木工用ドリル市場における価格等をある程度自由に決定できる状況を作り出したと言えます。本件ではかなり明確に合意や拘束行為を行っておりましたが、同業者同士で暗黙的に行われる場合も多いと言えます。同業者間での情報交換などを行う際には、このように暗黙的に価格引き上げなどが起きていないか社内で周知していくことが重要と言えるでしょう。

 

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