ホンダ元社員、法人クレカを用いた使い込み(背任罪)容疑で逮捕
2024/02/15   コンプライアンス, 危機管理, 刑事法, 自動車

はじめに


大手自動車メーカー、本多技研工業株式会社(以下、「ホンダ」)の元社員が、同社が法人契約していたクレジットカードを私的に用い、会社に2300万円の損害を被らせたとして背任容疑で逮捕されました。警視庁は、元社員が逮捕容疑以外も使い込みを行ったとみており、損害額の合計は約7000万円に及ぶとみられています。
 


 

7000万円会社に損害与えたか


報道などによりますと、30代の元社員の男は、2019年4月から2022年12月にかけて、ホンダから社員個人に貸与された法人名義のクレジットカードを私的に約2000回にわたって利用し、約2300万円分の損害を会社に与えた疑いが持たれています。元社員は主にインターネットの動画配信者に送金する「投げ銭」での支払いに使っていたほか、旅行やスポーツジム代金の支払いの際にも利用したとみられています。

当時、元社員は四輪関連の間接材を調達する間接材購買課の所属で、物品購入の経理事務や、法人カードの管理、利用明細書の確認を行う担当でした。
元社員は法人カードであれば利用明細の添付を行わずに決裁が下りる仕組みを悪用したほか、経理処理の際にも「新型コロナ対策費」などとうその名目を記載していたといいます。

警視庁は、他にも、この元社員が同僚など複数人分の法人カードを不正に使用していた可能性があるとみており、逮捕容疑も含めて2018年8月から去年3月の間に約5000回、合わせて約7000万円の損害を会社に与えた可能性があるとしています。

発覚した経緯は、2023年2月に社内窓口に寄せられた匿名の通報だったということです。ホンダは調査を行い、元社員を同年4月に懲戒解雇としています。

 

従業員による背任行為


「背任罪」と聞くと、経営幹部が逮捕される事例をイメージする人が多いのではないでしょうか。しかし、実は今回の事件のように、従業員が背任罪で逮捕されるケースもしばしばあります。

「背任罪(刑法第247条)」とは、他人のためにその事務を処理する者が、自己もしくは第三者の利益を図り、または本人に損害を加える目的で任務に背く行為をし、本人に財産上の損害を与える犯罪です。具体的には以下の4つを構成要件としています。

(1)他人のために事務処理をしていること
委任事務を処理する者に加え、補助者、代行者として事務処理を行った場合に成立する可能性があります。
 
(2)図利加害目的
自己もしくは第三者の利益を図り、または本人に損害を加える目的(図利加害目的)があったこと。「利益」には、財産としての利益のほか、社会的信用なども含まれる可能性があります。
 
(3)任務違背行為
事務を任された者が、法的に期待される行いに反すること。
 
(4)本人への財産上の損害
不良貸付をした場合など、事務を委託した本人(他人)に財産上の損害があった場合に認められます。


ちなみに、背任罪の法定刑は「5年以下の懲役または50万円以下の罰金」です。また、会社の取締役などが対象となる特別背任罪(会社法第960条、961条)の法定刑は「10年以下の懲役または1000万円以下の罰金」となっており、場合によってはその両方が科せられます。

では、具体的にどのような行為を行った場合に、従業員が背任罪で逮捕されるのでしょうか。過去には、以下のような逮捕事例があります。

 

■元商社の従業員 iPad 購入で逮捕
電気機器商社に勤務していた40代の男が、米国企業・Apple社製品の「iPad」を150点購入。経理担当者には、業務に必要な別の機器だと偽り請求書を提出し、会社に約3000万円の損害を与えたとして背任の疑いで逮捕されました。iPadの購入後、元従業員は無断で転売し、金を不正に得ていたとみられています。

■朝日生命元従業員、プリペイドカード不正使用
取引先に特典を提供するという名目で、およそ2年の間、複数回プリペイドカードを委託先に発注したものの、一部は金券ショップで換金するなどし、勤務先に損害を与えたとして朝日生命の元従業員が逮捕されました。不正に発注されたプリペイドカードの総額は約1000万円分だということです。
元従業員は当時、保険の契約者に特典として映画の割引券などを提供する担当で、正規の発注をする際に、不要なプリペイドカードを紛れ込ませる形で購入していたとみられています。人事異動で、他の社員と交代したことで一連の不正が発覚したということです。

 

コメント


ときに、社内事情に精通した従業員により、巧妙な手口で行われる背任行為。発見の難しさも一つの特徴です。

一方で、従業員の背任行為が露見した場合、懲戒解雇や損害賠償請求、刑事告訴と、大掛かりな対応が必要となってしまいます。会社と従業員双方のためにも、

・現場タスクと管理部門タスクの明確な分離
・出金における事前決済制度の徹底(小口取引については、定期的な通帳履歴の確認等で対応)
・定期的な人事異動がない部署の監査強化
・不正発見時に匿名での通報ができる環境づくり

などにより、そもそも不正ができない又は不正がすぐに発見される仕組み作りを目指すことが重要と言えます。

 

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