4月1日から施行、裁量労働制導入への新手続について
2024/02/05   労務法務, コンプライアンス, 労働法全般

はじめに

 今年4月1日から裁量労働制の導入に関する手続についての省令・告示の改正が施行されます。専門業務型裁量労働制では導入に際して労働者本人の同意が必要となります。今回は裁量労働制とそれに関する改正点について概観していきます。

 

裁量労働制とは

 裁量労働制とは、実際の労働時間ではなく、あらかじめ会社と労働者で定めた時間を働いたものとみなしてその分の賃金を支払う制度を言います。たとえばみなし労働時間を8時間と定めた場合、実際に働いた時間が1時間であっても、または10時間であっても8時間分の賃金が発生するということです。これにより労働者は勤務時間に縛られることなく労働者の裁量で勤務時間を管理でき、業務の能率化やライフワークバランスの改善が期待できます。裁量労働制は大きく専門業務型と企画業務型に分けられます。また同じ「みなし労働時間制」に属するものとして「事業場外みなし労働時間制」も存在します。いずれも実際に働いた時間に関係なく、あらかじめ定められた一定の時間を働いたものとみなされる制度です。

 

専門業務型と企画業務型

 上でも述べたように裁量労働制は専門業務型と企画業務型に分けられます。専門業務型は新商品や新技術の研究開発、情報処理システム、新聞やTV番組の取材や編集、TV番組のプロデューサーやディレクター業務、広告宣伝業務、ゲーム用ソフトウェア開発、金融商品開発、弁護士業務、公認会計士業務、弁理士業務、税理士業務など業務の性質上その遂行の方法を大幅に業務従事者の裁量に委ねる必要がある業務を言います。企画業務型は事業の運営に関する事項について、企画、立案、調査、分析を行う業務です。企業の本社など、事業の中枢で知識や技術、創造力を活かし、時間配分などを主体的に決定していくことが必要な地位が想定されております。専門業務型も企画業務型もいずれも通常の勤務時間制を当てはめるのではなく、それぞれの業務に合わせて労働者が自らの裁量で勤怠管理を行なっていくことが適切な業務と言えます。

 

2024年4月からの改正点

(1)本人同意・同意の撤回手続

 これら裁量労働制の導入・継続については4月1日から新たな手続が追加されます。まず専門業務型では裁量労働制の導入に際して、労使協定で定める事項に本人の同意を得ることや、同意しなかった場合の不利益取り扱いをしないことが追加されます。これについて企画業務型は既に決定すべき事項となっております。そして専門業務型、企画業務型両者について、同意の撤回の手続と同意・撤回に関する記録保存が決定すべき事項に追加されます。企画業務型では同意の記録については既に決定すべき事項となっております。

(2)労使委員会への説明

 これ以降は全て企画業務型にのみ適用される改正点となりますが、対象労働者に適用される賃金・評価制度の内容について会社から労使委員会に説明する事項を労使委員会の運営規程に定める必要があります。また賃金・評価制度を変更する場合についても同様に労使委員会に説明を行う旨労使委員会の決議に定める必要があります。

(3)労使委員会の開催と実施状況の把握等

 企画業務型では労使委員会の開催頻度を6ヶ月以内ごとに1回とすることを労使委員会の運営規程に定める必要があります。また制度の趣旨に沿った適正な運用の確保に関する事項を労使委員会の運営規程に定める必要があります。また定期報告の頻度が労使委員会の決議の有効期間の始期から起算して初回は6ヶ月以内に1回、その後は1年以内ごとに1回になるとされます。

 

その他の留意事項

 上記以外の留意事項として、健康・福祉確保措置が挙げられます。まず事業場の対象労働者全員を対象とする措置として、(イ)勤務間インターバルの確保、(ロ)深夜労働の回数制限、(ハ)労働時間の上限措置、(ホ)年次有給休暇についてまとまった日数取得の促進のいずれかを実施することが望ましいとされます。また個々の対象労働者について、(ホ)医師の面接指導、(ヘ)代休または特別休暇の付与、(ト)健康診断、(チ)心身の健康についての相談窓口、(リ)適切な部署への配置転換、(ヌ)産業医等による助言・指導のいずれかの実施が望ましいとされております。

 

コメント

 働き方改革の推進から各種みなし労働時間制などが注目され、多くの企業で採用されるようになってきました。また以前にも取り上げた業務委託や請負契約に契約形態を変更することにより労働者の裁量で勤務時間などを決定することができ、より柔軟な働き方が推進されてきております。しかし一方で、これらの制度が悪い方向で利用され、賃金や残業代固定の中で過剰な労働を強いられ、逆に労働者への負担が増加し裁量労働制の元で働いていた労働者が過労死して労災認定されるという事例も報告されております。これを受け政府は裁量労働制の導入に関しては労働者本人の同意を得なければならず、拒否した場合でも不利益取扱いができない旨の労使協定等が必要とする省令改正を行いました。4月1日からは導入だけでなく、すでに導入している会社もその継続に際して適用があります。それぞれの制度のメリット・デメリットを把握した上で、自社の従業員の勤怠状況や健康管理を見直しておくことが重要と言えるでしょう。

 

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