高知県で有識者会議が対策を検討、入札談合について
2024/01/22   コンプライアンス, 行政対応, 独占禁止法, 行政法

はじめに

 昨年9月に高知県発注の地質調査業務で入札談合を繰り返していたとして、公取委が13社に排除措置命令を出していたことを受け、高知県の有識者会議が入札制度の見直しなどを検討していることがわかりました。ペナルティの強化などが盛り込まれているとのことです。今回は入札談合と不当な取引制限について見直していきます。

 

事案の概要

 報道などによりますと、2017年4月頃から高知県発注の地質調査業務で県内の事業者が談合を行い、予定価格の92%~89%を目安に受注できるよう入札価格を調整して落札予定業者を決定していたとされます。参加していたのは14の業者で、指名を受けた業者の中から幹事会社が受注予定者を決定し、それ以外の業者は受注予定者が受注できるよう強力するという取り決めがなされていたとのことです。公取委は2023年9月、13社に排除措置命令、そのうち10社に計8626万円の課徴金納付命令を出しました。高知県の有識者会議は入札制度の見直しや違約金の増額など検討しており、最終報告案を1月下旬から2月上旬を目処に知事に提出する予定とのことです。

 

入札談合と独禁法

 国や自治体が発注する事業の競争入札で、参加する事業者同士でどの事業者が受注するかを申し合わせてそのように協力する行為を入札談合と呼びます。そしてこのような行為は独禁法の不当な取引制限に該当し違法とされます。独禁法2条6項によりますと、事業者が、他の事業者と共同して対価を決定し、維持し、もしくは引き上げ、または数量、技術、製品、設備もしくは取引の相手方を制限する等相互にその事業活動を拘束し、または遂行することにより、公共の利益に反して一定の取引分野における競争を実質的に制限することが不当な取引制限に該当するとしております。つまり「意思の連絡」「相互拘束」「一定の取引分野における競争を実質的に制限」があれば独禁法違反となるということです。違反した場合は排除措置命令(7条)、課徴金納付命令(7条の2第1項)の対象となり、また刑事罰として5年以下の懲役、500万円以下の罰金、法人には5億円以下の罰金が規定されております(89条1項1号、95条1項1号)。

 

不当な取引制限の要件

(1)意思の連絡

 不当な取引制限の行為要件は上記のように「意思の連絡」と「相互拘束」に集約されると言われております。この意思の連絡は事業者同士の積極的な合意だけでなく、黙示的な合意も含まれるとされております。たとえば同業事業者の話し合いや会合の中で、他の事業者がどういう行動をとるかを予測して、これらと歩調を揃えよう考えた場合は黙示的な合意と言えます。また会合に参加していなくても、参加者から連絡を受けて行動を合わせれば意思の連絡が成立するとされます。

(2)相互拘束

 そして上記の意思の連絡によって定まった内容を互いに守るため拘束し合うことを相互拘束と言います。たとえば事業者間で10%値上げすると決定し、それに違反した場合は何らかのペナルティを課すといった場合が典型例と言えますが、合意を守らせるためのペナルティは無くとも、自発的に約束を守る、いわゆる紳士協定でも相互拘束は成立するとされております。

(3)競争の実質的制限

 上記行為要件を満たし、さらに効果要件である「一定の取引分野における競争を実質的に制限」すること必要とされます。一定の取引分野とはいわゆる市場のことを言います。そして競争の実質的制限とは、競争自体が減少し、特定の事業者または事業者団体が、その意思である程度自由に価格、品質、数量、その他の条件を左右することによって、市場を支配することができる状態を形成することとされております(東京高裁昭和29年9月19日)。その分野におけるシェアの大きさや競争事業者の数や力関係などから判断されていきます。

 

入札談合における不当な取引制限

 以上のように不当な取引制限は「意思の連絡」と「相互拘束」によって成立しますが、入札談合については「基本合意」と「個別調整」があればこれらの要件に該当すると言われております。「基本合意」とは、事業者間で入札前に受注予定者を決定するというルールを定めることを言うとされます。そして「個別調整」とはこの基本合意に基づいて、個々の入札ごとに受注予定者を決定する行為とされております。さらに裁判例では基本合意の成立だけで不当な取引制限の要件を充足するとしております(東京高裁平成20年9月26日)。また実際の事件では個別調整行為の立証を積み重ねることによって、基本合意の存在の立証がなされていくと言われております(審決平成6年3月30日)。

 

コメント

 本件では高知県内の14の事業者が2017年から落札予定者を定め、予定価格の92%~89%で受注できるように入札価格を調整していたとされます。これらの行為は基本合意とそれに基づく個別調整行為に該当すると言えます。競争入札は本来、最も安い費用を提示した事業者が落札することによって公共事業費を抑える制度です。しかし入札事業者同士が話し合い、調整することによって競争が行われた場合よりも高い価格で落札が成功した場合、国民の税金を無駄に浪費することとなります。そのため談合には厳しい規制が設けられており、独禁法以外でも官製談合防止法が置かれております。高知県の有識者会議では入札制度の刷新や違約金の強化などを検討しております。談合やカルテルはあらゆる分野で今もなお摘発が無くならないのが現状です。談合やカルテルの要件、それによるリスクについて今一度社内で周知することが重要と言えるでしょう。

 

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