中小企業の人件費転嫁で公取委が指針発表
2023/12/04 コンプライアンス, 独禁法対応, 下請法, 独占禁止法

はじめに
公正取引委員会は先月29日、人件費の適切な価格転嫁に向け、事業者に求められる行動指針を発表しました。発注者が受注者との価格交渉に応じず取引価格を据え置くことは優越的地位の濫用に当たる可能性があるとのことです。今回は公取委の指針を概観していきます。
指針公表の経緯
今年の春季労使交渉による賃上げ率は30年ぶりの高水準となったものの、近年の急激な物価上昇に対して賃金の上昇が追いついていないのが現状とされます。この急激な物価上昇を乗り越え、持続的な構造的賃上げを実現するために、日本の雇用の7割を占める中小企業がその原資を確保できる環境の整備が重要とのことです。そこで公取委と内閣官房は「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」を策定し発表しました。受注者側である中小企業が物価上昇や賃上げのために適切に取引価格に反映すべく、発注者側に交渉できる環境が重要ということです。以下今回の指針を概観していきます。
優越的地位の濫用とは
優越的地位の濫用とは、自社と取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すため、相手方が自社の要求を受け入れざるを得ない事情を濫用し、正常な商慣習に照らして不当な要求を行うことを言います(独禁法2条9項5号)。具体的には取引相手に自社製品の購入や利用強制、協賛金等の要請、従業員等の派遣要請、取引代金の支払遅延、減額、受領拒否、返品その他相手方の不利益となる取引条件の設定などが挙げられます。優越的地位の有無については、取引相手の自社への取引依存度、自社の市場における地位、取引相手の取引先変更の可能性、その他自社と取引することの必要性を総合的に考慮されます。違反した場合、違反行為の差し止めや契約条項の削除などを命じる排除措置命令、また最長10年間の取引額に1%を乗じた額の納付を命じる課徴金納付命令が出されることとなります。
発注者側に求められる行動
今回の指針では発注者側と受注者側の事業者に一定の行動が求められております。まず発注者側の事業者にはまず経営トップの関与が求められます。労務費の上昇分について取引価格への転嫁を受け入れる取組方針を具体的に経営トップまで上げて決定、書面等に残る形で社内外に示すことが求められます。そして受注者側から取引価格引き上げの交渉が求められなくとも、発注者側から定期的に協議を実施することも求められます。また労務費上昇の理由の説明や根拠思料の提出を受注者側に求める場合、最低賃金の上昇率や労使交渉の妥結額など公表資料に基づくこと、価格転嫁に係る交渉では、受注者にとっての取引先などサプライチェーン全体を考慮すること、受注者から要請があれば交渉のテーブルにつくこと、受注者側の申し入れの巧拙に関わらず必要に応じて価格転嫁の考え方を提案することなどが求められております。
受注者側に求められる行動
受注者側の事業者にはまず価格転嫁の交渉に先立ち、国や自治体などの相談窓口の活用が求められます。中小企業の支援を行う機関に相談するなどして積極的に情報収集し交渉に望むということです。交渉の際の根拠資料は上でも述べた最低賃金の上昇率など公表資料を用い、値上げ要請のタイミングは業界の慣行に応じて年1回、半年に1回など定期的に行われる発注者との交渉タイミング、発注者の繁忙期など受注者にとって比較的優位なタイミングで行うことも推奨されております。そして発注者から価格の提示がなされるのを待たず、受注者側からも希望する取引価格を提示し、自社だけでなく、さらに自社の発注先などの労務費も考慮することも求められております。
コメント
近年急激な円安などもあり物価が急上昇しているもののそれに賃上げが追いついていないのが現状です。消費増税の際も同様ですが、商品価格が上昇した場合、消費者の消費意欲は減退するのが通常です。そこで原材料費や労務費の上昇分を価格に転嫁せず、受注業者や下請け業者に負担させることが懸念されております。そこで日本の労働者の7割が働く中小企業の持続的な賃上げを実現すべく、発注者側の事業者と安定的に価格交渉ができる環境を作ることが重要です。本来交渉に応じず、取引価格を据え置く行為は優越的地位の濫用や下請法違反に該当するおそれがあります。そこでこれらの事情も踏まえ公取委は上記のような指針を策定しました。自社よりも優位の取引先との交渉に際しては、これらの情報や専門家の意見なども踏まえて十分に準備して交渉に臨むことが重要と言えるでしょう。
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