政府、シルバー人材の就労促進に向け支援策を検討
2023/11/02   労務法務, 労働法全般

はじめに


人手不足が深刻化する中、高齢者の就労に注目が集まっています。政府は、高齢者の就労促進に向け、公民館などに就労の場を新設するほか、職場までの送迎費用を負担する支援策をまとめる方針とのことです。

 

送迎の費用負担 政府


全国に1340団体あるシルバー人材センター。2022年の統計では68万人以上が登録しているとされています。しかし、報道などによりますと、登録者の2割にあたる約13万人が過去1年間で一度も仕事をしていないそうです。

仕事をしていない理由として、「運転免許を返納して移動手段がない」ことなどを挙げる高齢者も少なくないといいます。

そこで、政府はシルバー人材センターに登録している高齢者を対象に、地域の公民館などに仕事場を新たに設けるほか、送迎で使用されるマイクロバスなどの費用を負担する支援策を取りまとめる方針を固めました。

公民館などでは、パソコン入力やチラシの封入などの業務内容が検討されており、今年度中にもモデル事業として全国数十か所で開始する見込みです。

令和4年度全国統計(公益社団法人全国シルバー人材センター事業協会)

 

深刻な人手不足と高齢者就労


政府が高齢者の就労を促進する背景には、深刻な人手不足が挙げられます。2022年時点で、企業の未充足求人は約130万人だったとされています。
業種別では、宿泊・飲食や運輸・郵便などにおいて、また職種では輸送・機械運転、建設・採掘、販売などで人手不足が顕著となっています。

今後も人口減少と高齢化が続くとみられており、労働力人口が毎年50万人規模で減少していくという統計もあります。

そんな中、2021年4月に施行された高年齢者雇用安定法(高年齢者等の雇用の安定等に関する法律)では、事業主側に65歳までの雇用確保の義務が課されたほか、65歳から70歳までの就業機会を確保するため、高年齢者就業確保措置として、以下のいずれかの措置を講ずる努力義務が新設されました。

① 70歳までの定年引き上げ
② 定年制の廃止
③ 70歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)の導入
(特殊関係事業主に加えて、他の事業主によるものを含む)
④ 70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入
⑤ 70歳まで継続的に以下の事業に従事できる制度の導入
a.事業主が自ら実施する社会貢献事業
b.事業主が委託、出資(資金提供)等する団体が行う社会貢献事業

 

再雇用をめぐるトラブル


上述のように、高年齢者雇用安定法改正により、事業主は就労を希望する正社員に対し、65歳までは就労の機会を与えることが義務付けられることとなりました。これにより、高齢者の就労が促進されることが期待されます。

定年後の雇用については一般的に、期間1年の有期雇用契約を締結し、65歳まで更新する形をとるケースが多いとされていますが(いわゆる再雇用制度)、高齢者の再雇用をめぐってはトラブルが後を絶ちません。

トラブルの内容としては、
・定年後に業務内容が変更となった
・再雇用の基準を満たしていないとして1年で雇い止めになった
・正社員に支給されている手当を合理的な理由がないのに、再雇用社員に支給しない

といった事例が挙がっています。

また、給与をめぐるトラブルも目立っています。定年前と同じ業務内容にも関わらず給与が大幅に減らされたとして訴訟に発展した事例もあります。

●名古屋 自動車学校職員による裁判
自動車学校の元職員が、定年退職後に嘱託社員として再雇用された際の基本給大幅減少の違法性を主張した訴訟で、今年7月、最高裁判所は「基本給の大幅減少は不合理」と判断した二審判決を差し戻し、審理を名古屋高等裁判所に差し戻す判決を言い渡しました。最高裁判所が正規・非正規間の基本給格差についての判断を出したのは初めてです。


 

コメント


シルバー人材センターでの就労に従前の職場での再雇用。さらに近年では、長年のキャリアで培った人脈・知見を活かして顧問として働く働き方も見られるようになりました。

このように、人材不足により高齢者側の就労選択肢は増えつつありますが、事業主の中には、いまだ再雇用制度の活用に苦心しているところも見られます。契約更新や、労働契約法の5年ルールをめぐるトラブルも散見され、中には定年をずらしたり、グループ会社などへの雇用を促す例もあるといいます。

高年齢者雇用安定法が課す就労機会付与義務を果たしつつ、いかに高齢者を適所に配置し、事業主にとってもメリットのある形で活用して行くか。慎重に検討して行く必要がありそうです。

 

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