関電や九電などで個人株主が提訴、株主代表訴訟について
2023/10/26   商事法務, 訴訟対応, 会社法, エネルギー関連

はじめに

 電力大手4社によるカルテル問題で関西電力の個人株主26人が当事の経営陣らに対し会社への賠償を求め株主代表訴訟を起こしていたことがわかりました。請求総額は3500億円とのことです。今回はこれまでにも取り上げてきた株主代表訴訟のおさらいをしていきます。

 

事案の概要

 報道などによりますと、関電の個人株主26人は、森本孝前社長や岩根茂樹元社長など関電の現旧取締役12人を相手取り、計約3500億円の支払いを求めているとされます。関電は中部電力や中国電力、九州電力とカルテルを結び、それぞれ相手のエリアで顧客を奪わないよう申し合わせていたことで独禁法違反に問われ、自主申告によって課徴金は免れたものの指名停止措置や補助金交付停止、入札参加停止措置などの行政処分を国や自治体から受けております。原告側は当事の役員らがこれらの問題に関与し、看過黙認しており、内部統制システムを築かず注意義務違反があったとしております。なお関電側は今年6月に提訴を見送っておりました。

 

株主代表訴訟とは

 会社と取締役の関係は委任関係とされ、取締役は会社に対し善管注意義務・忠実義務を負っているとされます。これらに違反し会社に損害を生じさせた場合、取締役は会社に対して損害賠償責任を負うこととなります(会社法423条)。この場合、本来は会社が当該取締役に責任追求することとなりますが、役員同士の仲間意識などから適切に追求がなされないことがあり得ます。そこで会社法では一定の要件のもと、株主が会社に代わって責任追求の訴訟を提起できる制度が用意されております。それが株主代表訴訟です(847条)。取締役などの会社役員が職務を遂行するにあたり、法令や定款に違反する場合、また他の取締役や従業員などを監視・監督する義務に違反した場合も任務懈怠に該当する可能性があり、代表訴訟の原因となり得ます。以下具体的に見ていきます。

 

株主代表訴訟の手続き

 6ヶ月前から引き続き株式を保有する株主は会社に対し責任追求の訴えを提起するよう請求することができます(847条1項)。非公開会社である場合はこの6ヶ月の制限はありません。株主から提訴請求を受けた会社が請求の日から60日以内に提訴しない場合、当該株主は株主代表訴訟を提起することができます(同3項)。この場合、会社は責任追及の訴えを提起しない理由を株主に通知する必要があります(同4項)。なお60日の経過を待っていたのでは会社に回復することができない損害が生じる恐れがある場合、例外的に直ちに株主代表訴訟を提起することができます(同5項)。株主代表訴訟の被告となりうるのは取締役だけでなく、会計参与、監査役、執行役、会計監査人、清算人なども含まれます。

 

提訴と訴訟参加

 株主代表訴訟を実際に提起する場合、その管轄は会社の本店所在地を管轄する地方裁判所となります。通常提訴の際の訴状に添付する印紙額は訴額により決定されます。そのため請求額が大きい場合、印紙額も高額になり資金力に乏しい株主は提訴が困難となっておりました。そこで現在では株主代表訴訟は「財産権上の請求」ではない訴えであり、訴額は160万円とみなされ、印紙額は請求額に関わらず一律1万3000円となっております。そして提訴がなされたら株主は会社に対し遅滞なく訴訟告知をします(849条4項)。告知を受けた会社はその旨を株主に通知するか公告することとなります(同5項)。株主代表訴訟には会社または他の株主が訴訟参加することができます。なお会社は原告ではなく、被告である役員側に立って参加することもできますが、この場合は監査役の同意が必要となります(同3項)。

 

コメント

 本件で関電含む電力大手4社は価格競争回避のために事業者や官公庁向けの電力について、互いの地盤エリアで顧客を奪い合わないようカルテルを結んでいたとされます。これにより公取委から総額1000億円を超える課徴金納付命令が出されました。関電はリーニエンシー制度により課徴金は免れたものの様々な行政処分を受けており、当事の役員らに任務懈怠責任が認められる可能性は高いと考えられます。以上のように会社に独禁法違反などの法令違反などがあった場合、会社役員は株主からの責任追及がなされる可能性が高いと言えます。近年株主代表訴訟の件数自体は減少傾向にあると言われておりますが、今回のように公開会社が大規模な不祥事を起こした場合、かなりの確率で提訴されるものと考えられます。一方で株主代表訴訟の濫用防止として原告の悪意疎明による担保提供や却下申し立ての制度も用意されております。どのような対応ができるかを予め検討して準備しておくことが重要と言えるでしょう。

 

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