東芝が取締役会で決議、自己株式消却等の手続きについて
2023/10/19 商事法務, 会社法, メーカー
はじめに
東芝は12日、取締役会で自己株式を消却することを決議したと発表しました。11月22日開催予定の臨時株主総会での株式併合の承認可決されることを条件としております。今回は株式消却等の手続きについて見ていきます。
事案の概要
東芝は2015年に発覚した粉飾決算以降、アクティビストとの対立など経営が混乱しており、2022年4月に株式非公開化などの経営再建案を打ち出してきました。そして今年JIPなどの国内連合の提案を受け入れ、9月に総額9兆円規模のTOBを実施し、応募比率約79%で成立したとされます。しかし90%に達しなかったことから株式売渡請求によらず、株式併合によってスクイーズアウトを行い、同時に自社が保有する自社株も消却してSPCであるTBJH合同会社の100%子会社となり上場廃止とする予定とのことです。なお同時に単元株式数の定めも廃止するとされております。
組織再編と上場廃止
近年主に上場会社等で特別目的会社(SPC)の完全子会社化を経て上場廃止する場合や、資本金を1億円以下に減資して中小企業化するといった例が増加しております。従来は会社の成長とともに資本金を増加させ、株式市場に上場し、東証一部(現東証プライム)を目指すことが一般的でした。しかし近年ではコロナ禍や円安、国際紛争など世界規模での景気の低迷や、物言う株主である、いわゆるアクティビストの増加と大株主であるファンドとの対立など、会社の規模を大きくすることが必ずしもメリットとならない状況が発生してきております。そこで市場に流通する自社の株式を回収し、上場廃止や減資などを経て、会社をコンパクト化した上で経営再建を図る企業が増加しております。その手法としては、TOBなどで株式を回収しつつ、株式交換や全部取得条項付種類株式の取得、株式併合、株式消却などが利用されます。今回は自己株式消却の手続きを見ていきます。
自己株式消却の手続き
TOBなどで株式を買い集めた後、株式併合や全部取得条項付種類株式の取得などでスクイーズアウトを行い、最後に自己株式を消却して100%子会社化を行います。自己株式の消却に際しては、取締役会設置会社の場合は取締役会決議で、取締役会非設置会社の場合は取締役の決定で、消却する自己株式の種類と数を決める必要があります(会社法178条)。自己株式の効力発生日は、株主名簿の記載・記録を抹消した時とされます。その効力発生日から2週間以内に発行済株式数の変更登記を行う必要があります(915条1項)。なお株券発行会社の場合は株主名簿の記載・記録を抹消し、株券を破棄したときに効力が発生するとされております。
株式売渡請求
株式の90%を取得できた特別支配株主は残りの株式を売り渡すよう請求することができます(179条の2)。これは平成26年改正によって導入された制度で、より簡易・迅速にスクイーズアウトを行うことができます。手続きとしては特別支配株主から会社に売渡請求の条件などを通知し、会社は取締役会または取締役の過半数で承認決議を行います(179条の3)。承認をしたら、その旨や条件などを株主に取得日の20日前までに通知し(179条の4)、また事前開示を行い(179条の5)、取得日に特別支配株主が残りの株式を取得することとなります(179条の9)。会社は取得日後遅滞なく特別支配株主が取得した株式数その他の事項を記載した書面または電磁的記録を備え置くこととなります(179条の10)。
コメント
本件で東芝株式のTOBによりSPCであるTBJH合同会社は約79%を取得したものの、90%には至らなかったことから売渡請求によることができず、株式併合によるスクイーズアウトを行い、それを条件として自己株式の消却を行って100%子会社化する予定となっております。自己株式消却は取締役会決議となりますが、株式併合は株主総会の特別決議を要します。なお株式分割も取締役会決議で可能ですが、取締役会非設置会社の場合は、取締役の決定ではなく株主総会の普通決議を要します。以上のように会社法ではあらゆる行為について必要な手続きは決議要件が定められており非常に複雑なものとなっております。それらに不備があった場合は事後、取消しや無効原因となる場合があります。それぞれの手続きに際して慎重に手続きを確認して準備していくことが重要と言えるでしょう。
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