ヤマト運輸配達員が救済申し立て、裁判例から見る労働者性
2023/10/18   契約法務, 労務法務, 下請法, 労働法全般, 労働者派遣法, 物流

はじめに

 ヤマト運輸が配達委託をしている個人事業主との契約を終了する問題で、労働組合「建交労軽貨物ユニオン」は16日、同社が団交に応じなかったとして不当労働行為の救済申し立てを行うと発表しました。同社は労働者に当たらないと主張しているとのことです。今回は労働法上の労働者性について裁判例から見ていきます。

 

事案の概要

 報道などによりますと、ヤマト運輸はカタログやチラシなどの配達を委託している約3万人の個人事業主との契約を24年度末までに全て終了する方針であるとされます。また業務委託の配達員だけでなく、クロネコDM便の仕分け作業に従事する同社のパート社員も同様に24年での雇用契約の終了が通知されているとのことです。同社は日本郵便と新サービスを立ち上げ、配送を日本郵便に委託する予定とされ、パート社員については既に団体交渉が実施されており、他のセクションへの配転や就職斡旋などを行うとしております。一方で業務委託の個人事業主は労働組合法上の労働者に当たらないとして団体交渉は拒否しております。

 

「労働者」該当性の判断基準

 労働契約法3条によりますと、「労働者」とは、「職業の種類を問わず、賃金、給料その他これに準ずる収入によって生活する者」を言うとされております。そしてその判断に当たっては、(1)事業組織にくみいれられているか、(2)契約内容の一方的・定型的決定がなされているか、(3)報酬の労務対価性が認められかを基礎として、(4)業務の依頼に応ずべき関係か、(5)指揮監督下の労務提供、一定の時間的場所的拘束があるかを総合的には判断するとされます。逆に顕著な事業者性が認められる場合には労働者性が消極的に判断されることとなります。なお労基法や労働契約法では労働者性について、実態として使用者の指揮命令下で労働し、賃金を支払われていると認められるかで判断されると言われております。具体的には、仕事の依頼についての諾否の自由、業務内容と遂行方法への指揮命令の有無、勤務場所・時間についての指定・管理の有無、労務提供の代替性、専属性の程度、公租公課の負担などを総合的に考慮されます。

 

「労働者」該当性に関する裁判例

 昨年労働者性が争点となった事例として、コンビニ店主が加盟する「コンビニ加盟店ユニオン」が待遇改善などを求めセブンイレブンに団体交渉を求めたものがあります。この事例で岡山県労働委員会はコンビニFC加盟店の店主に労働者性を肯定したものの、中央労働委員会での再審査で否定され、東京地裁も同様に否定し、高裁・最高裁もそれを支持しております(東京地裁令和4年6月6日)。顕著な事業者性が認められるとのことです。一方でFCパソコン教室の店長の事例では、他の直営店店長の勤怠管理、幹部会への出席、研修業務など委託業務の範囲が不明確であり、業務の諾否の自由が無いことなどから労働者性が肯定されております(東京地裁平成25年7月17日)。また同様に契約書には「業務請負契約書」と題されていたものの、契約期間や就業場所、就業時間、休日、賃金、その他労働条件が就業規則による旨などが盛り込まれており、業務の諾否の自由がなかったことから労働者性が肯定されている事例も存在します(大阪地裁平成27年1月29日)。他方、社内の机や美品などを使用して業務を行っているものの、勤務時間の制約がなく、勤怠管理もされず、高度の専門性から他の従業員と異なる扱いを受けていたフリーライターの労働者性は否定されております(東京高裁平成19年11月29日)。

 

業務委託のその他の問題点

 業務委託をする上で、実質労働者に該当するか否かだけでなくそれ以外にも「偽装請負」に該当するかが問題となる場合があります。偽装請負とは、形式的には業務委託契約が締結されつつ、発注会社が受注業者の従業員に対して指揮命令をしており、実質的に労働者派遣となっている場合を言います。これは労働者派遣契約の煩雑な手間を回避しつつ、人件費を削減する目的で行われると言われており、その判断基準も原則として指揮命令がなされているかが重視されております。このようないわゆる偽装請負は現在では違法となっており、違反した場合には罰則として1年以下の懲役または100万円以下の罰金とされております(労働者派遣法59条2号)。また行政処分として、指導や改善命令、勧告、事業者名の公表などが行われる場合もあります(48条~49条の2)。

 

コメント

 本件でヤマト運輸はチラシやカタログなどのDMについては約3万人の個人事業主に業務委託してきたとされます。来年度で契約が打ち切られ、団体交渉も拒否してきたことから東京都労働委員会に不当労働行為の救済申し立てがなされており、労働者性が争点となっております。業務の諾否の自由、契約の定形性、指揮命令の有無などが今後判断されていくものと予想されます。以上のように形式的に業務委託や請負に契約形態を移行した場合でも、「労働者」に該当するかは実質的に判断されることとなります。裁判例では特に指揮命令下にあったかが重視されているように見えます。自社で働いている「個人事業主」や発注先の従業員に対して指揮命令を行っていないか、勤務時間や方法などを指定していないかを今一度見直しておくことが重要と言えるでしょう。

 

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