フリーランスも労働安全衛生法の保護対象に、厚労省有識者検討会の報告書について
2023/09/22   労務法務, 労働法全般

はじめに

 厚生労働省の有識者検討会は21日、フリーランスなど個人事業主を労働安全衛生法の対象に含めるとする報告書を取りまとめました。負傷した際の報告義務も企業に課されるとのことです。今回は有識者検討会の報告を概観します。

 

検討会の趣旨

 近年の働き方改革によって個人事業主やフリーランスといった選択肢が増えてまいりました。しかしこれまで労働安全衛生法では、あくまで「労働者」の健康と安全の確保を主たる目的としてきたことから、これらフリーランス等を対象とした具体的な保護措置が設けられておらず、これらの者の業務災害の実態も十分に把握できていなかったとされます。また令和3年5月の石綿作業従事者による国賠請求訴訟での最高裁判決では労働安全衛生法22条の規定について、労働者と同じ場所で働く「労働者以外」の者も保護する趣旨であるとの判断が示されました。これを受け、有識者検討会では労働安全衛生法の一部の規定をフリーランスや個人事業主にも適用する旨の報告書が取りまとめられました。

 

建設アスベスト訴訟最高裁判決

 建設資材に含まれるアスベスト(石綿)を吸って中皮腫や肺がんになったとして、主に神奈川県内で建設作業に従事していた労働者や遺族らが国に対し国賠請求、また建材メーカー等6社に損害賠償の請求をしておりました。この訴訟では個人事業主扱いとなっている、いわゆる「一人親方」にも労働安全衛生法が適用されるのかが争点となっておりました。この点について東京高裁は一人親方については労働安全衛生法の保護対象ではないとして国の賠償責任を否定しました(東京高裁平成29年10月27日)。これに対し最高裁は、労働安全衛生法1条が職場における労働者の安全と健康を確保することを目的としており、57条も取り扱う者に健康被害を生ずるおそれがある物の危険性に着目した規制であるとして、労働者と同じ場所で働く労働者に該当しない者を当然に保護の対象外としているとは解し難いとし、一人親方も保護されるとしました(最高裁令和3年5月17日)。

 

労働者死傷病報告

 先日も取り上げましたが、労働安全衛生法や労働安全衛生法施行規則では、労働者が事業場内等で負傷し4日以上休業したときは遅滞なく様式23号にって労働基準監督署に報告しなければならないとされております。これを怠った場合はいわゆる労災かくしとなり、50万円以下の罰金が科される場合があります(120条5号、122条)。この規定はあくまで事業者に雇用されている労働者を対象とされてきました。しかし上記の最高裁判例を受け、フリーランス等が業務上の事故等で負傷した場合でも、仕事を発注したり現場を管理している企業などに報告を義務付ける方針とされます。違反に対しては罰則は無いものの、是正勧告などの行政指導の対象となる見通しです。

 

危険な場所への立入禁止等

 また労働安全衛生法では、災害発生時に労働者を退避させたり、危険な場所に立入ることを禁止したりすることを企業に義務付けておりますが。その保護対象をフリーランス等にも拡大する方針とされます。作業現場に足場や機械を設置した事業者には労働者の安全を保護する義務が課されておりますが、これについても同様とのことです。一方フリーランス自身にも使用する機械の定期自主点検の実施や、危険な業務を行う場合の講習など、一定の災害防止策を義務付ける方針としております。それ以外でも国はフリーランス等に年1回の健康診断を促すことや、それにかかる費用を発注企業が負担することなどが盛り込まれております。

 

コメント

 近年働き方改革などにより、企業から独立してフリーランスとして働く人が増加していると言われております。また企業側も人件費削減の見地から、個人事業主への業務委託という扱いを取る場合が増加しております。しかし労働安全衛生法等の労働法令は基本的に労働者と個人事業主を明確に分けて扱っており、後者への保護は不十分との指摘がなされておりました。また上でも述べたアスベスト訴訟での最高裁判決で、労働者と同様の危険に晒される個人事業主を当然に保護の対象から除外するとは解し難いとしており、厚労省の有識者検討会も今回の報告を取りまとめました。厚労省は来年以降、法改正を進める方針です。以上のようにフリーランスへの法対応は年々拡充されており、雇用している社員ではないというだけで放置できなくなってきております。業務委託等を活用している場合はそれらの点についても留意して見直しておくことが重要と言えるでしょう。

 

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