日本語学校が取消しを求め提訴、土地収用とは
2023/09/07   不動産法務, 行政対応, 訴訟対応, 行政法

はじめに

 福岡市の道路拡張事業をめぐり、福岡県収用委員会が事業用地として土地の明渡しを命じた収用裁決が違法であるとして日本語学校が取り消しを求め福岡地裁に提訴していたことがわかりました。執行停止も申し立てられているとのことです。今回は土地収用について見ていきます。

 

事案の概要

 報道などによりますと、福岡市は市道「博多駅草ケ江線」の中央区内の区間約200メートルを拡幅する事業を計画しており、歩行者の安全確保のために歩道の幅を広げ、自転車専用道路なども整備するとして県が2015年に事業認可したとされます。計画では市道沿いにある日本語学校「九州言語教育学院」の敷地の大半が事業用地となっており、市が学校側と交渉したもののまとまらず、市からの申請を受けて福岡県収用委員会が今年3月に土地の明渡しを命じる収用裁決を出したとのことです。損失補償は約3億3800万円とされております。学校側は県を相手取り収用裁決の取消しを求め提訴しました。県側は同校に公共性・公益性は無いと反論しております。

 

土地収用制度とは

 公共の利益となる事業のために事業用地が必要となった際、まずは土地の所有者と交渉して任意に買収することとなります。しかし所有者が同意しない場合は事業用地が取得できないこととなります。そこで一定の要件の下、所有者の意思にかからわず強制的に事業用地を取得する制度が存在します。それが土地収用制度です。主に道路の拡幅事業や鉄道敷設、鉄道立体交差事業などに利用されております。憲法29条では私有財産制度が保障されている一方で、公共の福祉のために正当な保障の下、私有財産を用いることができるとしており土地収用法では具体的にその要件や手続きが規定されております。その流れは事業認可と収用委員会による土地収用裁決となっております。以下具体的に見ていきます。

 

事業認定

 土地収用手続きではまず起業者が事業認定を受ける必要があります。事業認定庁は都道府県知事や国交大臣、または権限委任を受けた地方整備局長等となります。事業認定を求める起業者はまず説明会を開催し、事業認定庁に事業認定の申請を行います。申請書の公告と縦覧や事業認定庁が主宰する公聴会、第三者機関の意見聴取を経て事業認定の告示という流れとなります。事業認定の要件は(1)土地収用法3条に掲げる公共の利益となる事業であること、(2)起業者が事業を遂行する十分な意思と能力を有すること、(3)事業計画が土地の適正かつ合理的な利用に寄与するものであること、(4)土地を収用し使用する公益上の必要があることとなっており、全てを満たす必要があります(土地収用法20条)。具体的には道路、鉄道、河川、港湾などのインフラ関係、農業関係、通信関係、資源・エネルギー関係、衛生・環境保全関係、教育関係、福祉・労働関係などが挙げられます。

 

収用裁決

 事業認定がなされたら次に土地収用裁決手続きに移行します。土地収用裁決は収用委員会が行います。収用委員会は各都道府県知事により任命され各都道府県に置かれますが知事や議会とは独立して職務を行います。起業者は土地調書・物件調書を作成し収用委員会に裁決の申請を行います。申請が受理されますと、公告・写しの縦覧、裁決手続開始の決定と登記、当事者の意見書提出、意見陳述などを経て審理を行い、権利取得裁決・明渡裁決が出されることとなります。起業者は補償金を支払い、土地所有者は明け渡すこととなります。なお既に土地収用法や他の法律で使用することができる事業の用に供している土地については特別の必要がなければ収用することはできないとされております(4条、3条各号)。

 

コメント

 本件で土地収用裁決により敷地の大部分の明渡しを命じられた日本語学校側は、日本語教育機関として法務省の審査・認定を受けた告示校であり、収用裁決は学校の公共性や公益性を不当に軽視しており違法としております。上記のように土地収用法3条では学校またはそれに準ずる教育・学術研究のための施設は適格事業としており、そのような施設は特別の必要がなければ収容できないとしております。本件日本語学校がそれらの施設に該当するか、また特別の必要が認められるかが主な争点となってくるものと考えられます。以上のように土地収用法では一定の公共的事業のために強制的に土地を収用することを認めております。しかしその強制的な性質から当事者による不満や不服も多く発生します。行政関連事業に際しては根拠法令の要件やどのような不服申し立てがなされるかなどを予め把握して慎重に準備することが重要と言えるでしょう。

 

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