出資勧誘トラブルで金融庁が注意喚起、合同会社と出資規制について
2023/08/23   商事法務, 金融法務, 金融商品取引法, 会社法

はじめに


 読売新聞は20日付でスタートアップ(新興企業)に人気のある「合同会社」をめぐり出資トラブルが相次いでいる旨報じました。金融庁が規制強化に乗り出しているとのことです。今回は合同会社と金商法の出資規制について見ていきます。

 

事案の概要

 読売新聞の報道によりますと、資産運用を検討していた東京都内の30代男性が2019年頃、投融資業を営む合同会社の従業員から会社への出資と勧められ、600万円出資するも今春突如、出金が拒否され、出資を引き上げたい旨申し出ても定款を理由に拒否されたとされます。出資勧誘の際には「FX取引でもうけている」「出金は自由にできる」との説明を受けていたとのことです。投資家ら約50人は昨秋、出資金の払い戻しを求め東京地裁に提訴し、今年5月に総額4億8000万円を払い戻すよう命じる判決が出されたとされます。会社側は「代表社員の裁量で金額を制限できる」との定款の存在を主張していましたが、東京地裁は事業や財政の詳細な状況を説明せず、代表社員の裁量が合理的かも立証されていないと退けました。

 

合同会社とは

 合同会社は平成17年の会社法施行に伴い廃止された有限会社に代わり、新しく導入された企業形態です。日本版LLCとも呼ばれ、「合名会社」「合資会社」と並んで持分会社の1つとされます。株式会社は会社の持ち主という意味での社員たる地位が株式という形で細分化されておりますが、持分会社は出資比率としての持ち分という概念が存在します。そして持分会社のうち合名会社と合資会社は会社の負債を無限に負う無限責任社員が存在するのに対し、合同会社は株式会社と同様に社員は有限責任しか負いません。また株式会社は会社の所有者たる株主と経営を担当する取締役等が分離(所有と経営の分離)されておりますが、持分会社は原則として所有者たる社員が経営も担います。このように合同会社は小規模で人的な関係が緊密な持分会社でありながら、株式会社のように有限責任というスタートアップに利用しやすい形態となっております。

 

合同会社の設立と登記

 合同会社を設立するには、商号や事業内容、本店所在地、資本金の額、決算期などの基礎事項を決定し定款を作成します。定款には社員になろうとする者全員が署名または記名押印しますが、株式会社の場合とは異りこの定款に公証人の認証は必要ありません。そして会社の届出印を作成し、出資を行い登記申請し、登記されることによって会社が成立します(会社法579条)。合名会社や合資会社は無限責任社員が存在することから、出資は会社成立後でもかまいませんが、合同会社は前述のとおり有限責任社員しか存在しないことからここでの出資は厳格になっており、設立までに全額の払込を要します(578条)。合名会社、合資会社では社員の氏名と住所が登記事項となっておりますが、合同会社では業務執行社員のみ登記することとなります。また代表社員については合名会社、合資会社では代表しない者が存在する場合に限り登記しますが、合同会社では株式会社と同様に常に登記事項となっております。また資本金も合同会社のみ登記事項となります。

 

出資の募集と金商法

 会社が多数の者から株式や社債などを発行して資金調達を募る場合、原則として金融商品取引業の登録が必要とされます。株式や社債は有価証券に該当し、また持分会社の社員権、信託受益権、匿名組合契約に基づく権利なども「みなし有価証券」に該当し、これらを自ら募集する場合は同様に金商法上の登録が必要とされます。しかし合同会社については、資金調達のために社員権を自ら募集する場合でも金商法上の登録は不要とされております(金商法2条8項7号)。近年この制度を巡って出資トラブルが相次いでいるとされております。金融庁では電話やSNS、インターネット、投資セミナー等で幅広い年齢層相手に勧誘がなされており、高利回りを謳うもその利回りで運用されない、退社を申し出ても返金が引き伸ばされたり、最終的に連絡が取れなくなるといった相談が多数寄せられているとのことです。なお合同会社の業務執行社員以外の者が業として勧誘を行う場合はやはり金商法上の登録を要することとなります。

 

コメント

 以上のように合同会社は株式会社に比べ小規模で設立手続きも簡易なものとなっております。定款への公証人による認証も不要であることから認証手数料(3~5万円)がかからず、登記の際の登録免許税も株式会社が最低15万円であるのに対し合同会社は6万円と割安になっております。そのため合同会社の設立件数は右肩上がりで増加しており、10年前の約3.5倍に増加したと言われております。海外企業の日本法人も合同会社を選択している例も多く、アップルジャパンやアマゾンなども合同会社となっております。一方本来なら登録が必要な出資の私募も登録せずに行えることを利用した不当な勧誘が増加していると言われております。金融庁にはこの4年間で約250件の相談や苦情が寄せられており、専門家は合同会社の柔軟性を濫用したトラブルであり、金融当局が想定していなかった法規制の不備を突かれた形と指摘しているとのことです。今後金商法改正など規制強化がなされることが予想されます。会社法上の規制だけでなく、金商法等の規制にも留意して適切な制度利用を検討していくことが重要と言えるでしょう。

 

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