大阪高裁、十徳ナイフを携帯した鮮魚店主に有罪判決
2023/08/03   労務法務, コンプライアンス, 刑事法

はじめに


大阪高等裁判所は、8月1日、十徳ナイフを隠し持っていた容疑で軽犯罪法違反(凶器携帯)の罪に問われていた鮮魚店の店主に対し、一審に続き科料9,900円の有罪判決を下しました。ナイフを携帯する正当な理由の有無が焦点となった今回の判決。「仕事で使えたら便利」という理由では、正当な理由にあたらないという判断となりました。

 

事案の概要


今回、問題となった「十徳ナイフ」。アーミーナイフや多機能ナイフとも呼ばれ、ナイフだけでなく、ハサミや爪やすり、懐中電灯などの機能がついていて、使用しない時は折りたたんでコンパクトに収納することができます。軍隊などが調理などのために所持することもありますが、一般向けではキャンプなどでも使用されるツールです。

その十徳ナイフを店主(40代)が所持していたのは、2021年12月のことでした。報道などによりますと、店主は仕事を終え、帰宅中に運転していた自転車で赤信号を無視したとして職務質問を受けました。その際に、かばんの中からはさみや栓抜きのほか、刃渡りおよそ6.8センチのナイフなどが折り畳まれた十徳ナイフが発見されたといいます。

これにより、軽犯罪法違反に問われた店主は、「十徳ナイフは、仕入れで市場に行く際に商品についている結束バンドを切るときや災害時などに備えて、カバンのポケットに持ち歩いていた」と、正当な理由があったとして無罪を主張。しかし、今年1月、一審の大阪簡易裁判所は科料9,900円の有罪判決を下しました。これに対し、店主は正式な裁判を望み控訴。今回の判決となりました。

大阪高等裁判所は、今回の判決で、店主が仕事で十徳ナイフを使用していたのは数年前までさかのぼる点を指摘。そのうえで、

・十徳ナイフは人に対する使用で、重大な害を加える危険性が認められるものであること
・そのような危険性が認められるものを、漠然とした目的で携帯することは犯罪を未然に防ぐための法の趣旨からみて相当とは言えないこと

などを理由として、一審判決を支持し、改めて店主に有罪判決を下しました。店主側は上告する方針だということです。

 

刃物所持に関する法律


刃物などの持ち歩きが取締まりの対象となることは広く知られていますが、特に6センチを超えるナイフを携帯する際には注意が必要です。銃砲刀剣類所持等取締法第22条では、刃の長さが6センチをこえる刃物については、「何人も、業務その他正当な理由による場合を除いては、これを携帯してはならない。」と定めています。違反した場合は2年以下の懲役又は30万円以下の罰金となります。

また、刃の長さが6センチより小さいナイフだったとしても、その危険性によっては、正当な理由なしに所持をすることが認められないケースがあります。

軽犯罪法第1条2号
「正当な理由がなくて刃物、鉄棒その他人の生命を害し、又は人の身体に重大な害を加えるのに使用されるような器具を隠して携帯していた者は、拘留又は科料に処する」


刃物などを隠して携帯することは、人の殺傷などの犯罪に結びつきやすいことから、銃砲刀剣類所持等取締法に該当しなくても、取り締まり対象となる場合があるということです。

例えば、普段使っているはさみやカッターナイフなどの文房具であっても、正当な理由なく持ち歩いていると取締りの対象となる可能性があります。

なお、今回の裁判でも言及された「隠して携帯していた」という要件については、自宅又は居室以外の場所で、手に持ち、身体に帯びるなど直ちに使用できる状態で、人目につかないよう隠して身辺に置くことを指します。例えば、刃物を人目に触れにくくして持ち歩いたり、車内の人目につかないところに保管するなどのケースでは、「隠して携帯している」として違反行為に問われるおそれがあります。

 

コメント


先月もJR新宿駅の山手線車内で、料理人と名乗る男性が布に包まれた包丁2本を座席に置いていたところ、うたた寝中に包んでいたタオルが外れ、包丁の一部が見えたため、付近の乗客が逃げ出す騒動が発生しました。

こうした事例を見ていくと、どの企業においても、従業員が所持品を理由に、軽犯罪法違反に問われるリスクがあると考えられます。この機会に、改めて、どのような物の持ち歩きが違法となるおそれがあるのか、どのようなケースで正当理由が認められるのかを社内で周知してみるとよいのではないでしょうか。

 

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