イベントリハーサル中、噴射装置の水直撃で男性死亡/安全配慮義務について
2023/07/19 労務法務, コンプライアンス, 労働法全般, 刑事法
はじめに
大阪府警此花署は7月15日、大阪市此花区の「舞洲スポーツアイランド」で、イベントリハーサル中に噴射装置の水の直撃によりイベントスタッフの男性が14日に死亡した事故に関し、現場検証を行いました。噴射装置の設置状況の調査に加え、関係者への聞き取り調査を行ったといいます。
リハーサル中に水直撃で男性死亡
報道などによりますと消防に通報が入ったのは、14日午前11時すぎのことだったといいます。大阪・此花区にある人工島、「舞洲スポーツアイランド」に設営された音楽イベントの会場で作業スタッフとして働いていた40歳の男性がステージ下に設置された水を噴射する機械の近くに倒れていたため、警備員が通報しました。男性は顔などにケガをしていて、病院に搬送されましたがおよそ1時間後に死亡が確認されました。死因は顔面負傷による脳挫傷でした。
当時、現場は翌日15日、16日に開催が予定されていた大型音楽イベントのリハーサル中。音楽イベントは水を使ったウォーターイベントで、装置は観客席に水を降り注ぐために作られた「ウォーターキャノン」と呼ばれるものでした。
ウォーターキャノンは、筒状の形をしていて、長さはおよそ1.6メートル、水の噴き出す口径は約7.5センチ。水を時速約120キロで噴出するといいます。この装置は今回のイベント用に用意され、40本がステージ付近に設置されていたということです。
ウォーターキャノンの作動には「主電源」「スタンバイ」「発射」という順番で3回操作すると水が発射されるということですが、担当するスタッフの話では、「主電源」と「スタンバイ」を操作した後に、複数の装置が作動し、水が噴出したということです。
また別のスタッフは、死亡した男性が装置の筒の中をのぞき込んでいる姿を目撃していて、誤噴射された水が男性の顔に当たったと考えられています。警察は安全管理に問題がなかったかなど、業務上過失致死の疑いで水が出た経緯や当時の状況を調べています。
なお、今回の事故を受けて、運営会社はイベントの大阪公演の中止を発表(名古屋、東京公演は開催決定)。客や関係者に対する謝罪と共に、再発防止に努める旨、コメントしています。
民事上は安全配慮義務違反の有無等が争点に
今回の事故を受け、大阪府警此花署は業務上過失致死罪の疑いで調査を進めているといいます。一方、今後、民事上の安全配慮義務違反の有無も争点となりそうです。
「安全配慮義務」とは、もともと、判例の積み重ねにより築き上げられた法理で、ある法律関係に基づいて特別な社会的接触関係に入った当事者間において課される義務です。具体的には、当該法律関係の付随義務として、信義則上、法律関係に伴う危険から、相手方の生命・身体の安全を保護する義務を指します(最三判昭和50年2月25日)。
安全配慮義務というと、労災事案などが思い浮かべられると思いますが、安全配慮義務は、何も雇用契約を結んだ当事者のみに適用されるわけではありません。業務委託契約やイベント参加契約などに基づく安全配慮義務が認められることもあります。また、「元請企業と下請企業の従業員」や「派遣先企業と派遣労働者」のように、直接の契約関係にない場合でも、安全配慮義務が認められた判例もあります(最一小判平成3年4月11日、東京高判平成21年7月28日)。
現時点で、今回の被害者男性とイベント運営会社がどのような契約関係にあったかは明らかになっていませんが、イベント運営会社がイベント設営スタッフに対し、何かしらの安全配慮義務を負っていた可能性は高いといえます。
コメント
今回、中止となったイベントでは、問題となったウォーターキャノンを用いた演出が見せ場の一つで、出演アーティストらが舞台上で観客と水鉄砲を撃ち合うなどして盛り上がる予定だったといいます。
観客を楽しませるための装置がもたらした今回の痛ましい事故。ウォーターキャノンに何かしらの故障・欠陥があったのか否か、ウォーターキャノンの点検が適切に行われていたか、スタッフへの安全教育はどの程度行われていたかなどが今後の争点となりそうです。
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