虚偽の商業登記で韓国籍の男を逮捕、会社の乗っ取りについて
2023/07/18 商事法務, 会社法

はじめに
神奈川県警は12日、虚偽の商業登記をしたとして有印私文書偽造・同行使および公正証書原本不実記録・同共用の疑いで逗子市の男(85)を逮捕していたことがわかりました。不動産会社の経営権を奪おうとしていたとみられております。今回は会社の乗っ取りについて見ていきます。
事件の概要
神奈川新聞の報道によりますと、逮捕されたのは韓国籍の男で逮捕容疑は不動産会社の乗っ取りを企て、同社の役員全員を解任し、自身が取締役に就任した旨の商業登記を横浜地方法務局で行ったとされます。その際、臨時株主総会議事録などを偽造し同局員に提出したとして、有印私文書偽造や公正証書原本不実記録などの疑いで逮捕されました。男は同社を乗っ取り同社の商業ビルを売却しようとしていたとされ、同社と男は民事訴訟で争っていたとのことです。男は容疑を認めております。
会社の乗っ取りとは
一般に上場企業などの大規模な会社では投資ファンドなどによる敵対的買収により経営陣が入れ替わることを会社の乗っ取りと考えられることが多いと言えます。しかし小規模な同族会社などの中小企業でも会社の乗っ取りは発生します。敵対的買収の場合はTOBや株主総会を経た株式併合などによって行われ、あくまで適法な手段によってなされますが、後者の場合は経営者が気づかないうちに経営陣が入れ替わり、会社や会社財産が乗っ取られているといったことがあります。特に小規模な同族会社では、代表取締役に後見開始がなされるなどしたことをきっかけにその家族が書類を偽造するなどして乗っ取るといった事例も見られております。以下具体的に見ていきます。
会社乗っ取りの類型
上でも触れたように会社の乗っ取りにはいくつかの種類があります。まず上場会社などの大規模企業の場合はTOBなどによる敵対的買収です。しかし上場会社の場合、通常は何らかの敵対的買収防衛策が講じられていることが多く、敵対的買収が成功することは稀と言われております。むしろ上場会社でも乗っ取りが成功しやすいのが同族企業の場合です。このような場合、創業家の親族が一定割合の株式を保有している場合が多く、それら親族によって株主総会で現会長を解任するといった場合が多いと言えます。次に非公開の中小企業の場合です。こちらの場合もやはり同族企業で親族間による乗っ取りのリスクがあると言えます。会社法では譲渡制限株式は定款で定めることにより、その相続人に売渡請求をすることが可能です(174条)。それを利用して経営者の後継者から経営権を奪うといった例もありえます。そして小規模会社で最も危険性が高い乗っ取り手法として偽造書類などを使った虚偽の登記です。実際に経営者の親族が他の役員や司法書士などと結託し虚偽の登記で乗っ取ったという事例も存在しております。しかしこの手法は他の手法とは異なり違法な犯罪行為となっております。
会社乗っ取り対策
敵対的買収型の乗っ取りに対してはこれまでも取り上げたようにポイズンピル、ホワイトナイト、パックマンディフェンス、クラウンジュエルなどの各種対策を講じておくことが考えられます。それら以外でも株主総会や取締役会決議で拒否権を行使できる拒否権付種類株式や、役員選任権が付いた黄金株の活用で同族会社内における乗っ取りを防止することも可能と言えます。また持株会社を設立し、会社の株式を100%持株会社に取得させてグループ化し、ホールディングス化することによって株式が取得されることを回避することも考えられます。なお違法な手段での商業登記については、役員全員が解任される内容の商業登記申請がなされ実行された際には法務局から本店宛に通知がなされることとなっており一定の乗っ取り防止措置が図られております。
コメント
本件で逮捕された男は会社経営権を奪う目的で臨時株主総会議事録などを偽造し、全ての役員を解任して自身が取締役に就任する内容の商業登記を行いました。役員全員の解任を内容とする登記であることから、法務局から通知がありそれによって発覚したのではないかと考えられます。また本件とほぼ同様の手口での会社乗っ取り事件が昨年11月にも発生しており本誌でも取り上げました。以上のように小規模な非公開会社ではこのような違法な手口での会社の乗っ取り事例がしばしば見られます。一方で会社経営者の放漫経営から会社を救うために乗っ取りが企てられるといった例も存在すると言われております。どのような背景でどのような乗っ取りがなされるかを確認し、迅速な対応を検討しておくことが重要と言えるでしょう。
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