札幌市が啓発ポスターを掲示、カスタマーハラスメントについて
2023/07/12   労務法務, ハラスメント対応法務, 労働法全般

はじめに
住民などから理不尽なクレームや要求を突きつけられるカスハラの被害を職員が受け、札幌市は今月から啓発ポスターの掲示を開始しました。自治体としては初とのことです。今回はカスタマーハラスメントのついて見直していきます。
事案の概要
読売新聞の報道によりますと、札幌市の市政に関する市民からの要望などを対応する部署では1日に30件ほどの訴えが届き、最近では過度なクレームや嫌がらせが耐えないとされます。市の調査では、回答した窓口対応職員42人のうち7割がそれによる強いストレスを感じており、軽いストレスを含めると9割に登るとのことです。何度も執拗に電話をかけてきたり、土下座の要求、家族を包丁で刺すなどといった脅迫行為も確認されており、同市ではカスハラ防止のための啓発ポスターの掲示は始めております。岡山市でも23年度から5年間の「市消費者教育推進計画」でカスハラを新しい課題と位置づけたとされます。
カスハラとは
厚労省が公開している「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」によりますと、カスハラとは顧客等からのクレーム・言動のうち、要求内容の妥当性に照らして、それを実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、それにより労働者の就業環境が害されるものとされております。正当なサービス改善要求やクレームは当然のことながらカスハラには該当しません。具体的には身体的な攻撃、脅迫や中傷、侮辱、暴言などの精神的な攻撃、威圧的言動、土下座要求、執拗な言動、不退去や居座りなどの拘束的言動、差別的言動、性的言動、不相当な商品交換要求、金銭補償要求などが典型例として挙げられております。程度にもよりますが、これらの行為は傷害罪や暴行罪、脅迫罪、恐喝罪、強要罪、侮辱罪、業務妨害罪などの各種犯罪に該当する場合があります。
カスハラに関する裁判例
カスハラに関する裁判例として、小学校の教諭が保護者から理不尽な言動を受けた際、校長が穏便にその場を収めるため、教諭を一方的に非難し、勢いに押されるまま保護者に謝罪させた事例で裁判所は学校側の教諭に対する不法行為と認めた例が紹介されております(甲府地裁平成30年11月13日)。一方で小売店の従業員と顧客がトラブルになり、従業員が会社に対し安全配慮義務違反があったとして賠償を求めた訴訟では、会社が入社時から顧客への対応に関するテキストを配布し初期対応を指導し、サポートデスクや近隣店舗のマネージャー等に連絡できるようにし、深夜も2名体制にしており、十分な体制が整えられていたとして安全配慮義務違反を否定しております(東京地裁平成30年11月2日)。また介護老人ホームの入居者の家族による職員等への暴言や誹謗中傷を理由にホーム側が契約を解除し、退去するまでの利用料を2倍とする特約がなされていた事例で裁判所は、ホーム側がそれまで9回にわたり書面で言動の改善を求めていた経緯などから即時解除を有効とし、特約についても契約終了後も明け渡さない利用者を予定しており金額も均衡を失するほど高額でもないことから消費者契約法10条1項に反しないとしました(東京地裁令和3年7月8日)。
カスハラへの対応
厚労省のマニュアルでは、カスハラへの対応として、(1)カスハラを想定した事前の準備と、(2)実際に起こった際の対応を紹介しております。まず事前の準備として事業主がカスハラへ対策や取組みの基本方針・基本姿勢を従業員に明確に示し、周知・啓発すること、従業員のための相談対応体制の整備、対応方法・手順の策定、社内対応ルールの従業員への教育・研修を挙げております。そして実際に起こった際の対応としては、カスハラに該当するかの判断のための確かな証拠や証言に基づく事実確認。商品やサービスに過失があった場合は謝罪し、交換や返金に応じ、過失や瑕疵が無い場合は要求に応じない。被害を受けた従業員へは1人で対応させず複数名や組織的に対応しメンタルへの配慮をする。再発防止のため定期的な見直しや改善を継続的に取組むことなどが挙げられております。
コメント
厚労省の企業調査によりますと、過去3年間で従業員から相談があったと回答した企業割合ではパワハラ(48.2%)、セクハラ(29.8%)に次いでカスハラ(19.5%)が高く、近年ではこのカスハラの割合のみが増加しているとされます。カスハラは従業員の健康不良や業務パフォーマンスの低下、対応による時間の浪費、業務上の支障や人員・金銭的損失など企業にとって多大な悪影響が指摘されております。また上で触れたように会社がカスハラに対し適切な対応を取らず、従業員に損害を生じさせた場合、当該従業員に対し会社に賠償責任が生じることもありえます。どのような場合にカスハラとなるのか、その場合はどのように対応していくのか、また被害を受けた従業員にどのようにケアしていくのかを明確にし、社内で周知・啓発していくことが重要と言えるでしょう。
関連コンテンツ
新着情報
- セミナー
 
松永 倫明 セールスマネージャー(株式会社Cyberzeal、Viettel Cyber Security所属)
阿久津 透 弁護士(弁護士法人GVA法律事務所/東京弁護士会所属)
- 【オンライン】経営と法務が備えるべきサイバーリスク~サイバー攻撃被害の現実と予防策〜
 - 終了
 - 2025/05/29
 - 17:30~18:30
 
- ニュース
 - 2026年1月から施行、改正下請法について2025.10.22
 - 下請法の改正法が今年5月23日に公布され、来年2026年1月1日に施行される予定となっています...
 
- まとめ
 - 中国:AI生成画像の著作権侵害を認めた初の判決~その概要と文化庁「考え方」との比較~2024.4.3
 - 「生成AIにより他人著作物の類似物が生成された場合に著作権侵害が認められるか」。この問題に関し...
 
- 弁護士
 
- 平田 堅大弁護士
 - 弁護士法人かなめ 福岡事務所
 - 〒812-0027
福岡県福岡市博多区下川端町10−5 博多麹屋番ビル 401号 
- 解説動画
 
加藤 賢弁護士
- 【無料】上場企業・IPO準備企業の会社法務部門・総務部門・経理部門の担当者が知っておきたい金融商品取引法の開示規制の基礎
 - 終了
 - 視聴時間1時間
 
- 業務効率化
 - Hubble公式資料ダウンロード
 
- 解説動画
 
岡 伸夫弁護士
- 【無料】監査等委員会設置会社への移行手続きの検討 (最近の法令・他社動向等を踏まえて)
 - 終了
 - 視聴時間57分
 
- 弁護士
 
- 松田 康隆弁護士
 - ロジットパートナーズ法律会計事務所
 - 〒141-0031
東京都品川区西五反田1-30-2ウィン五反田ビル2階 
- 業務効率化
 - ContractS CLM公式資料ダウンロード
 










