カルロス・ゴーン元会長が日産自動車などを名誉棄損等で提訴か
2023/06/23   危機管理, 訴訟対応, 刑事法

はじめに


カルロス・ゴーン元会長が日産自動車などを提訴したというニュースが舞い込んできました。前代未聞の逮捕から、逃走を遂げたゴーン元会長。今度は古巣を提訴し、裁判で争うことになります。

 

ゴーン、日産などを提訴


海外メディアなどの報道によりますと、ゴーン元会長は、日産自動車株式会社など3社と、関係者12人を名誉毀損や証拠の捏造を主張し、レバノンの裁判所で訴訟を提起したということです。裁判は9月18日に開かれる予定です。

ゴーン元会長は訴訟の中で、およそ10億ドル、日本円にしておよそ1400億円の支払いを求めていて、この損害賠償額は日産の市場価値(約160億ドル)の5%以上に相当するものだということです。

 

世界的経営者から一転、逮捕、逃亡へ


ゴーン元会長は世界最大級の自動車製造グループ、ルノー・日産・三菱アライアンスを率いた人物で、2000年代に経営難に陥っていた日産の経営を立て直したことで一躍その名を知られることになりました。
その後、2005年にはルノーの最高経営責任者(CEO)に就任しています。アメリカのビジネス雑誌では、「全米企業の総収入ランキングに掲載された世界的企業2社を同時に率いた初めての人物」として紹介され、世界中でその名が知れ渡っています。

しかし、2018年11月に逮捕され、そのニュースは日本のみならず海外でも大きく取り上げられました。容疑は金融商品取引法違反で、2011年3月期から2018年3月期までの8年間の有価証券報告書に、役員報酬およそ91億円を過少記載し、未記載分を退任後に未払い報酬として受け取るつもりだったとして金融証券取引法第197条1項1号違反(有価証券報告書の虚偽記載)にあたるとされました。

その後、一度は保釈されたものの、中東・オマーンの知人側に日産の資金を流出させたなどとして、会社法違反(特別背任)容疑で再逮捕。ゴーン元会長は結果的に東京地検特捜部に4回逮捕されたほか、金融商品取引法違反と会社法違反の罪で起訴されました。

2019年4月に108日間勾留された東京拘置所から作業員姿に変装して保釈されますが、同じ年の年末に、保釈条件で海外渡航が禁じられていたにもかかわらず、国籍を持つレバノンにプライベートジェット機を使って逃亡し、現在もレバノンに滞在しています。

【逃亡までの時系列】
●2018年 11月 金融商品取引法違反容疑で1回目の逮捕
       日産、三菱自動車がゴーン氏会長職を解任
●    12月 金融商品取引法違反容疑で2回目の逮捕
      会社法違反容疑で3回目の逮捕(サウジルート)
●2019年 1月 ルノーの会長兼CEOを辞任
●     3月 保釈される(保証金10億円)
●     4月 会社法違反容疑で4回目の逮捕(オマーンルート)
        日産がゴーン氏の取締役を解任
        保証金5億円で保釈
●     6月 ルノーの取締役を辞任
      三菱自動車の取締役を退任
●     12月 中東レバノンに逃亡


しかし、日本とレバノンとの間では容疑者の身柄の引き渡しに関する条約が結ばれていないため、レバノン政府は、「ゴーン元会長は合法的に入国していて、レバノンでの滞在に法的な問題はない」との見解を示しています。

また、ルノーの本社が置かれているフランス当局も会社資金を私的に流用した疑いで捜査を進めていて、昨年ゴーン元会長に対し逮捕状を出しています。ゴーン被告は無実を証明できると述べています。

 

外国の裁判所に訴え提起された場合の対応


今回のケースのように、日本企業が外国の裁判所で損害賠償請求訴訟を提起された場合、訴えられた国の国内に、企業側が資産を有しているか否かが対応を決めるポイントになります。

訴訟に敗れ、判決が確定した場合、任意に支払いを行わない限り、強制執行が行われることになりますが、当該国内に資産がなければ、強制執行は原則、空振りに終わるためです。そのため、当該国内に特に資産を有していない場合には、日本企業側が訴訟に対応せず無視するケースもあるといいます。

もっとも、民事執行法第22条6号は、「確定した執行判決のある外国裁判所の判決」を債務名義とする強制執行を認めています。また、民事執行法第24条(外国裁判所の判決の執行判決)は、日本の裁判所で外国裁判所の判決に対する執行判決を求められるとしています。そのため、条件が満たされた場合、外国裁判所の判決に基づき、日本国内の資産に対し強制執行することが可能になります。

なお、執行判決を求める訴えにおいては、民事訴訟法第118条(外国裁判所の確定判決の効力)の要件を満たしているかが争われることになります。具体的には、①外国裁判所の裁判権が適法に認められること、②外国裁判で敗訴した被告が訴訟開始に必要な呼出し等を受けたこと(これを受けなかったが応訴したこと)、③判決内容・訴訟手続が日本における公の秩序又は善良の風俗に反しないこと、④相互の保証があること(相手国に日本の判決の承認例がある場合や、対象となる判決と同種類の判決を、相手国も日本と同等の条件下で承認すること)です。

仮にレバノンで提起された今回の訴訟に日産側が敗訴した場合、これらの要件の充足をめぐって改めて争うことになりそうです。

 

日本における日産とゴーン元会長との民事訴訟


今回の訴訟はレバノンで提起されていますが、日産自動車側も、「会社の信用が棄損された」などとして、2020年2月、ゴーン元会長に対し、約100億円の損害賠償を求める民事訴訟を横浜地方裁判所に提起しています。

原則として、日本の裁判所で扱えるのは、“被告が日本在住の場合”ですが、2012年4月の民事訴訟法改正もあり、仮に被告が海外在住であっても、以下のケースでは、日本に裁判管轄が認められるとされています。

・契約履行地が日本
・不法行為地が日本
・財産や不動産の所在地が日本にあるケース
・消費者や労働者による訴えである場合
・当事者同士の合意があった場合

 

コメント


今回の訴訟でゴーン元会長が日産に請求している損害賠償額は、日産の市場価値の実に5%以上に相当する額だといいます。
ゴーン元会長には、国際刑事警察機構(インターポール)により「国際逮捕手配書」が出されており、逃亡先のレバノンから出国した場合、渡航先で逮捕される可能性があります。そのような状況下、提起された巨額の損害賠償請求訴訟。ゴーン元会長が裁判でどのような言葉を発するのか、また、この裁判によってどのような影響が日産に出てくるのか、引き続き目が離せません。
 

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