日本通信、米国Quanta社との受領拒絶訴訟で一部認容判決
2023/06/06   契約法務, 訴訟対応

はじめに


スマートフォンの製造をめぐり、日本企業とアメリカ企業が訴訟で争っていました。トラブル発生から判決までに8年を要した今回の裁判、一体何があったのでしょうか。日本通信株式会社は、2016年以来係争中だったQuanta Computer Inc.(以下「Quanta」)との訴訟の第一審判決が5月25日付で下された旨、発表しました。

 

事案の概要


日本通信株式会社は、主に高速データ通信が可能なLTEや5Gなどのモバイル通信サービスを提供する会社で知られていますが、自社ブランドの携帯電話やスマートフォンも販売しています。

その日本通信は、2015年8月4日、QuantaとODM契約(以下「本契約」)を締結し、スマートフォンの製造を委託。同契約に基づき、70,000台の製造を発注しました。しかし、納入された製品の一部に不具合があり、その不具合が解消されないままの状態が続いたことから、日本通信は約14,000台分の製品の受領を拒絶したといいます。

受領拒絶を受けて、製造側のQuantaは、2016年8月、アメリカ・カリフォルニア州にて、日本通信に対して訴訟を提起。日本通信が受け取りを拒絶しているスマートフォンの売買代金の支払いを求めました(以下「米国訴訟」)。

 

【訴訟の推移】
(1)訴訟提起を受け、日本通信は、本契約の管轄合意(米国カリフォルニア州)を不便宜法廷地(Forum Non Conveniens)の法理に基づき争い、米国訴訟の却下を申し立てました。

(2)さらに日本通信は、2016年9月26日には、米国訴訟で訴えられた債務の不存在確認及びQuantaに対する損害賠償請求を求める訴訟を日本法に基づき東京地方裁判所に提起しました(以下「本訴」)。
※請求額は、①約150万アメリカドルと約15億200万円の合計額または②約16億8,200万円(加えて、①、②いずれかに対する遅延損害金)

(3)2018年4月、米国訴訟にて、「米国カリフォルニア州には裁判管轄が認められない」旨の判決が下されます(確定判決)。

(4)米国訴訟の判決を受け、それまで審理が保留とされていた東京地方裁判所での本訴の審理が開始。

(5)Quanta は、2018年7月31日、日本通信が受領を拒絶している製品の売買代金及び損害賠償を求め反訴提起しました。
※反訴の請求額は、約405万アメリカドル及びこれに対する遅延損害金(製品約1万4,000 台の売買代金+日本通信からの追加発注を期待して調達した材料費等)

(6)両社間で争われていた「本訴及び反訴の準拠法」に関し、東京地方裁判所が米国カリフォルニア州法によると判断。(両社間で締結されたODM契約の定めに従ったかたち)

(7)2023年5月25日、東京地方裁判所は、日本通信側の主張を大きく認め、Quantaに対し、43,310.32米ドル(及びこれに対する遅延損害金)並びに41,921,196円(及びこれに対する遅延損害金)を日本通信に支払うよう命じる判決を下しました。

(8)一方で、日本通信に対しては、454.26米ドル(及びこれに対する遅延損害金)をQuantaに支払うよう命じています。
※日本通信・Quantaのその余の請求はいずれも棄却

 

ODM契約とは


ODMとは「Original Design Manufacturing」の略です。ODM契約は一般的に製造業において用いられる契約で、委託者のブランドで受託者が製品の設計および生産を受託する契約をいいます。
(OEM契約は、受託者に製造のみを委託する点でODM契約と異なります。)

企業ごとの強みを生かすことのできる契約形態で、製品の開発と製造におけるリソースや専門知識の効果的な活用を可能にし、企業間の協力関係を強化する役割を果たします。また、企業はODM契約を通じて市場に迅速に製品を投入することができ、競争力を高めることができます。

【ODM契約の具体例】
・美容メーカーと食品メーカー間でODM契約を締結。美容メーカーからの委託を受け、食品メーカーの食品製造技術を生かし、美容に有効な成分を含んだ美容食品を製造した事例。
・携帯販売会社とスマートフォンメーカー間でODM契約を締結。スマートフォンメーカーがスマートフォンの開発・設計・製造を行い、携帯販売会社が製品を販売した事例。


ODM契約は、いわゆる業務委託契約の一種となるため、契約締結時の注意点としては、業務委託契約と共通するところが多いと言えます。その中で、ODM契約を締結する際に、特に注意するべきポイントを挙げます。

1.委託範囲の明確化
ODM契約では、設計や製造にとどまらず、マーケティング・物流・販売などを受託するケースも少なくありません。それだけ、委託内容が広範かつ複雑なものとなる可能性があるため、受託者が製品の設計・開発・製造その他、どこまでの業務を委託するのか明記しなくてはなりません。

2.仕様変更の際の手順
製造の過程で仕様変更を余儀なくされるケースも十分にあり得ます。仕様変更がある際に、どのような手順でこれを進めるのか、事前に定めておく必要があります。

3.知的財産権の帰属
ODM契約では、委託者のブランド力が前提となります。製品や図面・回路図の特許・意匠・商標等について、ブランドを持つ委託者と製品を製造した受託者のいずれに帰属するのか、一つ一つ事前に合意しておく必要があります。

4.納入方法
特に外国企業との取引の場合には、どのような方法で輸送し、どの時点で納入完了とするのか等について綿密に定めておく必要があります。

5.試験・検収方法
今回の日本通信の例のように、量産した製品が仕様を満たしていないという事態も十分に想定されます。試験・検収方法をしっかり定めておくことが重要です。

 

コメント


それぞれの強みを生かして、高い品質の製品を世に送り出すことのできるODM契約。しかし、完成品のイメージが想定と異なるなどの理由で作り直しや修正のコストが一気に増大するケース、量産用の部品が調達できないことが後になって判明するケース、量産製品が仕様を満たさず全て廃棄になるケースなどトラブルも少なくありません。
様々なリスクパターンを緻密にシミュレーションしながらの慎重な契約書審査が必要となります。
 

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