購入した県有地に産業廃棄物も、県に対する損害賠償請求は棄却
2023/05/24   契約法務, 行政対応, 環境法務, 民法・商法, 行政法, 住宅・不動産

はじめに


一見綺麗な土地、でも実はゴミが埋まっていたらどうしますか?富山市の不動産会社などが県有地の購入後に産業廃棄物の存在が発覚したとして富山県に対して約8億円の損害賠償を求めた裁判で、富山地方裁判所は5月17日、不動産会社らの請求を棄却しました。

 

訴訟までの経緯


報道などによりますと、富山市の不動産会社、株式会社ビルトなど2社は2017年、富山市蓮町にある県有地が売却されるとして入札に参加しました。ビルトらは、この県有地を約4億3700万円で落札し、住宅用地として開発計画を進め始めましたが、購入した土地を調査したところ、地中に産業廃棄物「鉱さい」が埋まっていることが確認されました。産業廃棄物は土地の約3分の2にわたって埋まっており、そのすべてを除去するには11億円以上の費用と4年以上の時間がかかると試算されたといいます。

ビルトらによると、契約前に県側から「地中にコンクリートがある」旨の説明があったそうですが、産業廃棄物の存在は契約前に知らされていなかったとのことです。

その後、産業廃棄物の除去費用等をめぐり、ビルトらは県と何度も協議を行いましたが、結果、折り合いはつきませんでした。これを受け、ビルトらは、「県側が産業廃棄物があることについての調査を十分に行わず、注意義務を怠った」などとして、合わせて約8億円の損害賠償を求めて富山地方裁判所に提訴していました。

しかし、富山地方裁判所はビルトらの請求を棄却。「被告(県側)が鉱さいが埋まっていたことを知っていたという事情は認められず、新たに調査・収集して説明する義務までは負っていなかった」と述べました。ビルト側は控訴する方針とのことです。

 

契約時の説明義務違反の法的取扱い


契約時の説明義務については、民法に規定する“信義誠実の原則”(民法第1条2項)より派生する義務とされています。

この説明義務違反が生じた場合、不法行為(民法第709条)と認定される可能性があり、説明義務違反により損害を被った当事者は、不法行為に基づく損害賠償請求を行うことができます。

その一方で、民法上、不法行為に対しては、損害賠償責任しか規定されていないことから、一般的に、説明義務違反それのみを理由とした契約無効の主張や取消・解除の請求はできないとされています(説明義務違反が詐欺や錯誤を構成すると認定された場合はこの限りではありません)。

■物件購入時の説明義務違反が認められた事例
【事案の概要】
戸建住宅の購入の際、売主である不動産業者および媒介業者が、物件付近に高圧送電線が存在し、物件がその振れ幅に一部掛かることの説明を怠ったとして、説明・調査義務違反等に基づく契約解除(予備的に損害賠償等)を求めた事案。
 
【判決】
高圧送電線による制限が法令上の制限内であったこと、その危険性が具体的・客観的なものといえないこと、物件の価格が高圧送電線を考慮した設定となっていたことなどを重視。契約の解除は認められなかった。一方、説明・調査義務違反による慰謝料として100万円の支払いが命じられた。


 

不動産売買で売主が説明すべき事項


それでは、不動産の売買にあたり、売主側が買主側に伝えるべき事項にはどのようなものがあるのでしょうか。不動産売買における説明義務に関しては、複数の判例が蓄積されています。それらを踏まえると、以下の事項が説明すべき事項として挙げられます。

・買主の購入目的に照らし重要な要素となる事項
・契約締結に向けて、買主が当然知っておくべき不可欠な前提事項
・物件購入の有無、購入代金などの意思決定を左右する事項
・買主から直接説明を求められた事項で、契約締結の判断に重大な影響を及ぼすと考えられる事項
・物件に発生している問題のうち、その重要性を容易に認識できる事項
・欠陥の内容に照らし、買主に損害を与えることが明白な欠陥

これらを個別具体的な事情に照らしながら、どこまでの説明義務を負うかを判断していくことになります。

 

コメント


これまでにも紛争事例が絶えない、土地取引。どこまでの説明を行うのか、どのような調査・説明を求めるのか、土地を売る際にも買う際にも、注意が必要になります。

今回の判決を受け、原告側は「判決を聞いて驚いた」と語っています。購入する土地の中に産業廃棄物が有るか否かは、買主側からすると、重要な関心事だと思います。その辺りが、高裁でどのように判断されるのか、訴訟の趨勢が注目されます。

 

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