東京地裁がメドエルジャパンにパワハラ認定、退職勧奨とパワハラについて
2023/05/09   労務法務, 労働法全般

はじめに

 聴覚障害者用の人工内耳などの輸入販売を手掛ける「メドエルジャパン」の女性社員が、度重なる退職勧奨などを受けたとして同社に約990万円の損害賠償を求めた訴訟で東京地裁は先月28日、220万円の支払いを命じました。パワハラに該当するとのことです。今回は退職勧奨とパワハラについて見ていきます。

 

事案の概要

 報道などによりますと、メドエルジャパンの50代の女性社員が2020年9月、同社の元社長らから度重なるパワハラを受けたとして損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こしたとされます。原告の女性社員は2010年12月に同社にマーケティングマネージャーとして入社したとされますが、2012年10月から半年にわたり14回の退職勧奨を受けたり、マーケティング業務を外され清掃担当にされたり、基本給を半額にされたり、また仕事を与えられず、外部との連絡を禁じられ、他の従業員から隔離されるといった状況が5年間にわたって継続したとのことです。

 

退職勧奨とは

 退職勧奨とは、会社が退職してもらいたい従業員と交渉して自主退職を促すことを言います。解雇通告と異なり、あくまでも会社と従業員との合意を目指すというものです。一般には「肩たたき」などとも呼ばれております。退職勧奨は会社と従業員が対等な立場で話し合い、雇用契約の解消に至る場合は何ら問題の無い適法なものと言えますが、従業員の明確な拒絶の意思に反しても執拗に繰り返したり、また不当な圧力を加えたりして行った場合は違法となることがあります。また自主退職させるために業務を行わせなかったり、他の従業員から隔離するといった行為が伴った場合は、それ自体がパワハラとして違法となることもありえます。以下退職勧奨に関する裁判例を見ていきます。

 

退職勧奨に関する裁判例

 退職勧奨に関する裁判例として次のような例が挙げられます。まずリーマンショック後の大規模退職者募集への応募を促したが従業員が断り、会社側が面談を断ると解雇を含む処分があり得ると伝えたというものです。東京地裁は、退職勧奨は労働者の自発的な退職意思形成を働きかける説得活動であり、労働者の自由意思に委ねられるべきとし、説得の手段・方法が社会通念上相当と認められる範囲を逸脱しない限り使用者の正当な業務行為として行いうるとしました。その上で不当な心理的圧力を加えたり、名誉感情を不当に害する言辞を用いたりする場合は限度を超えた違法なものとなるとしました(東京地裁平成23年12月28日)。また「自主退職であれば退職金は出る」「懲戒解雇を避けたいのか、退職手続きを進めるのか」「一番重い結論になる可能性が高い」などと退職勧奨を行った例では、従業員の退職の意思表示は無効とされました(東京地裁平成23年3月30日)。退職勧奨に応じなかった従業員を会議室に籠もらせて仕事を与えなかった事例でも人格権を侵害する違法行為とされております(東京地裁令和2年9月28日)。

 

パワハラについて

 ここでも簡単にパワハラの定義について触れておきます。パワハラとは、職場において優越的な関係を背景とし、業務上必要かつ相当な範囲を超えた、労働者の就業環境を害する行為を言うとされております。優越的な地位とは上司と部下の関係などが典型例ですが、逆に知識や経験が豊富な部下が優越する場合もありえます。裁判例などでパワハラとされた行為としては、直接身体的な攻撃を加える場合や、誹謗中傷、風説の流布、数年間別室に隔離したり、過大なノルマ、逆に過小な業務を命じること、業務上の必要性が無いのに炎天下の除草や研修用コスチュームを着用させるといった例が挙げられます。逆に必要な範囲であれば注意や叱責、異動や降格は適法となっております。

 

コメント

 本件で東京地裁は、女性社員に対する退職勧奨のうち、「マーケティングの知識がない」「誰も一緒に仕事したくないと言っている」といった言動や掃除担当への配置転換、机を他の社員から極端に離した点について、意思を不当に抑圧し、精神的苦痛を与えるものであるとして違法と判断しました。退職の説得方法や手段が社会通念上の相当性を逸脱していると判断されたものと考えられます。以上のように退職勧奨は社会通念に即した手段・方法で説得される限りは適法と言えます。また違法となる退職勧奨は多くの場合、同時にパワハラにも該当することとなります。また従業員が一度は納得して自主退職したものの、後日無理やり辞めさせられたと提訴してくる例が多いと言われます。退職勧奨の際には説得の方法や手段に留意しつつ、異動など退職以外の解決策も模索していくことが重要と言えるでしょう。

 

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