在庫返品問題のダイコク、公取委が確約計画を認定
2023/04/11 独禁法対応, 独占禁止法

はじめに
公正取引委員会は、大手ドラックストアを運営する株式会社ダイコクが納入業者に対し行っていた優越的地位の濫用疑いの行為に関し、確約手続に係る通知を行っていましたが、4月6日、ダイコクが申請した確約計画を認定したと発表しました。
確約手続は、独占禁止法違反が疑われる行為が発覚した際に、公正取引委員会と事業者との間の合意により自主的に解決する制度です。TPP協定やTPP11協定の締結に伴い整備された制度で、排除措置命令や課徴金納付命令といった法的措置と比べ、早期の是正が期待できる点が特徴です。主に以下の流れをとります。
(1)公正取引委員会による調査
(2)公正取引委員会による「確約手続きに係る通知」
(3)事業者による確約認定申請(確約計画≒改善のための具体的計画等の提出)
(4)公正取引委員会による確約計画の認定
ダイコクによる優越的地位濫用が疑われる行為
株式会社ダイコクは、医薬品・日用雑貨・化粧品・食品などを販売する「ダイコクドラッグ」の運営会社です。主に、海外からの観光客などインバウンド需要をターゲットとした店舗展開を行うことで売上を伸ばし、関西を中心に全国約180店舗を展開していました。
しかし、公正取引委員会の発表によると、同社は2020年3月頃から、新型コロナウイルス感染症の流行によるインバウンド需要の減少の影響を受け、多くの店舗を閉店したといいます。その結果、膨大な量の在庫を抱えることとなったということです。そこで、ダイコクは納入業者に対し、以下を要求したといいいます。
■売れ残り商品の返品
ダイコクは、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けて売れ残った商品などについて納入業者へ返品を要求。しかし売れ残りの原因は、コロナ禍の影響を受けたもので、納入業者の責任ではありませんでした(納入業者自らが売れ残り商品の返品を申し出た事実も認められていません)。なお、返品にあたり納入業者側に生じる損失をダイコクは負担していません。
■従業員等の派遣の要請
さらに、ダイコクは、店舗閉店などの際、売れ残り商品等の返品に関する作業を行わせるため、納入業者の従業員などを派遣させていました。また、閉店店舗だけでなく、ダイコクの物流センターや、営業を継続する店舗でも返品作業を行わせていたということです。
加えて、新規開店や店舗改装する際にも、納入業者に対し、他の納入業者の商品を含む商品の陳列などの作業を行わせていたといいます。
こうした派遣要請について、ダイコクは納入業者との間であらかじめ従業員などの派遣条件などについて合意しておらず、さらに、派遣に必要な費用は納入業者が負担していたということです。
一連の違反被疑行為に対し、2022年4月に公正取引委員会は立ち入り検査を行っています。
公正取引委員会の見解
公正取引委員会は、買取取引において、取引上の地位が優越している事業者が、以下の行為を行った場合、例えそれが、新型コロナウイルス感染症の拡大による影響を受けたものであったとしても、優越的地位の濫用として問題となると見解を述べています。
・取引上の地位が優越している事業者が、納入業者に対して、当該納入業者の責めに帰すべき事由がない場合に商品を返品すること
・取引上の地位が優越している事業者が、納入業者に対して、当該納入業者の従業員等を派遣させて本来自らが行うべき役務を行わせること
・返品によって当該納入業者に通常生ずべき損失を負担しないこと(事前の納入業者の同意取得の有無を問わない)
確約計画
では、これらの違反被疑行為に対し、ダイコクはどのような確約計画を立てたのでしょうか。概要は以下のとおりです。
・違反被疑行為を取りやめていることを確認すること
・違反被疑行為と同様の行為を行わないこととし、この措置を今後3年間実施すること
・確約計画に基づく一連の措置を、納入業者に通知し、かつ、自社の従業員に周知徹底すること
・違反被疑行為により納入業者において毀損された金銭的価値を回復すること
・独占禁止法に関するコンプライアンス体制の構築
①行動指針の策定と従業員への周知徹底
②定期的な研修並びに法務担当者による定期的な監査
③社内規程の作成(違反行為に関与した自社の役員及び従業員に対する処分、違反行為に係る通報を行った者に対する適切な取扱い等について定める)
④独占禁止法違反行為に係る通報制度の納入業者及び自社の従業員に対する周知
⑤法務・コンプライアンスに係る担当の取締役の新設
・措置の履行状況を今後3年間、毎年、公正取引委員会に報告すること
公正取引委員会は、これらの確約計画が、独占禁止法に規定する「措置内容の十分性」、「措置実施の確実性」を満たすものとして、今回、認定を行いました。
なお、この確約計画が実施されることにより、ダイコクは、納入業者約80社に対し、総額約7億5000万円にのぼる金銭的価値の回復を行うことになるとしています。
コメント
今回、ダイコクは実行性のある確約計画をしっかりと定めたことで課徴金の納付や排除措置を免除されました。立ち入り検査から1年弱での認定は、同種の事案としては最短といわれています。
法的問題の発生を事前に予防する「予防法務」の重要性が叫ばれて久しい昨今ですが、法的問題が発生した後の瞬発力ある対応ができるか否かも法務機能として重要な要素となりそうです。法令違反行為を指摘されたときに、どのように是正措置をとり、関係官庁に報告を行うか。平時から十分な準備を行うことが必要です。
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