不正会計で東芝に賠償命令、株主による訴訟について
2023/04/05   訴訟対応, 会社法

はじめに

2015年に発覚した東芝の不正会計問題で、株価が下落して損害を受けたとして個人株主らが東芝と旧経営陣に対し損害賠償を求めていた訴訟で先月28日、高松地裁が東芝に計約590万円の支払いを命じていたことがわかりました。旧経営陣に対しては棄却とのことです。今回は株主による会社等に対する訴訟について見ていきます。

 

事案の概要

 2015年4月、証券取引監視委員会への内部通報により東芝の不適切会計が発覚し、第三者委員会の調査によって大規模な不正会計があかるみにでました。調査では約1200億円とされていた同年3月期の純利益は378億円であったとされ、約1500億円余りに登る粉飾決算が発覚し、金融庁は同年12月に約73億円の課徴金納付命令を出しております。これを受け全国の同社個人株主が東京、大阪、高松、九州、沖縄で同社および旧経営陣に対し損害賠償を求め集団提訴しており、原告数は450人、請求額は総額約19億円に登るとされております。また旧経営陣15人に対しては、同社に対し約33億円の支払いを求め株主代表訴訟も起こされていたとのことです。

 

金商法による規制

 有価証券届出書や有価証券報告書などの開示書類に虚偽記載をするといった行為をいわゆる粉飾決算と言います。架空売上の計上、架空在庫の計上、子会社に対する架空売上の計上、グループ内での循環取引などが典型例と言えます。金商法によりますと、「有価証券報告書もしくはその訂正報告書であって、重要な事項につき虚偽の記載のあるものを提出した場合」には10年以下の懲役または1000万円以下の罰金とされております(197条)。法人に対しても7億円以下の罰金とされます(207条1項)。この粉飾決算については金商法以外でも問題となる可能性があり、例えば粉飾決算に基づいて配当可能額が無いにもかかわらず違法配当した場合は5年以下の懲役、500万円以下の罰金とされております(会社法963条5項2号)。また粉飾された決算書類を使用して金融機関を欺き、融資を受け、詐欺罪に問われた事例も存在すると言われております。

 

不正会計に関する株主保護

 金商法24条の4によりますと、「有価証券報告書のうちに重要な事項について虚偽の記載があり、又は記載すべき重要な事項若しくは誤解を生じさせないために必要な重要な事実の記載がかけている場合」、関わった会社や役員、監査法人等に損害の賠償する義務があるとしております。これは虚偽記載を信用して被害を受けた投資家などの救済を図る趣旨とされております。虚偽記載のある目論見書や資料を使用して株式を取得させた場合などで責任を負い、例外的に無過失を証明した場合には責任を免れるとされております。通常の損害賠償訴訟では、原則として原告側が過失の存在を証明することとなりますが、この場合は逆に被告側が無過失を証明することとなっております。また発行会社は無過失責任となっており、故意や過失がなくとも責任を負うとされます。

 

株主代表訴訟

 株主が行う訴訟としては他に株主代表訴訟があります。こちらも会社役員を相手取って起こされるものではありますが、上記が株主個人の利益のために行われるものであるのに対し、株主代表訴訟はあくまで会社のために行われる訴訟と言えます。会社の役員等に任務懈怠や違法な行為があり、それによって会社が損害を受けた場合、本来は会社自身が責任追及を行うこととなりますが、身内意識などから適切に行われないことも多いと言えます。そこで会社に代わって株主が提訴するという制度です(会社法847条1項)。株主は1株保有していれば原告となることができ(公開会社は6ヶ月前から引き続き保有)ます。手続きとしてはまず会社に対して提訴するよう請求し、60日以内に提訴しない場合に自ら提訴することとなります。なお一般に訴状に貼り付ける印紙代は訴額に応じることになりますが、株主代表訴訟では一律1万3000円となっており、経済力の乏しい個人株主でも巨額の請求が可能となっております。

 

コメント

 今回の高松地裁での判決は、これまで全国で展開されてきた個人株主による集団訴訟では昨年3月の福岡地裁に続き2件目となります。福岡地裁では東芝に、株主17人に対し計約1450万円の支払いを命じ、旧経営陣への請求は棄却しております。今回の高松地裁判決でも東芝に、株主22人に対し計約590万円の支払いを命じ、旧経営陣については棄却しております。上記のように粉飾決算について会社は無過失責任を負うことからこのような結果になったのではないかと考えられます。以上のように会社の不正会計が発覚した場合、株主からは株主代表訴訟だけでなく、株主個人の損害賠償を求め提訴されることがあります。また金商法による罰則や巨額の課徴金が課されることとなり、経営基盤が傾くこともあると言えます。今一度粉飾決算のリスクについて周知しておくことが重要と言えるでしょう。

 

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