ヤフコメ侮辱投稿で賠償命令、侮辱罪と発信者情報開示について
2023/04/04 刑事法

はじめに
愛知製鋼の元専務本蔵義信氏(72)が、ヤフーニュースのコメント欄に侮辱する内容を投稿されたとして、名古屋市の男性に損害賠償を求めていた訴訟で先月30日、名古屋地裁が約93万円の支払いを命じていたことがわかりました。今回は昨年厳罰化された侮辱罪と発信者情報開示について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、トヨタ自動車グループの「愛知製鋼」の元専務である本蔵氏は同社の技術情報を漏らしたとして不正競争防止法違反の罪に問われ起訴されておりました。しかし昨年3月18日に無罪判決(確定済み)が出され、その翌日にヤフーニュースのコメント欄に「人を踏み台にして上がっていった」などと人格をおとしめる投稿がなされたとされます。この投稿は後に削除されましたが、本蔵氏は発信者情報開示仮処分申し立てをするなどして投稿者を特定し提訴に踏み切ったとのことです。本蔵氏側は「無実の罪で精神的にも苦しい立場に立たされ、追い打ちをかけるような侮辱行為は許されない」としておりました。
名誉毀損と侮辱罪
侮辱罪を理解するには、類似の犯罪である名誉毀損を理解することが早道と言えます。刑法230条1項によりますと、「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず」名誉毀損が成立するとしております。「公然」とは、不特定多数の者が認識しうる状態にすることを言います。ネット投稿や出版、ビラ貼、広まる可能性があれば噂話でも該当しうると言えます。「事実を摘示」とは、「○○には前科がある」「○○は横領している」など具体的な事実を挙げることです。真偽は問いません。そして「人の名誉を毀損」とは社会的評価を低下させることを言います。これに対し侮辱罪は、「事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した」場合を言います(231条)。「バカ」「デブ」「チビ」といった誹謗中傷行為が侮辱罪に該当します。つまり事実の摘示があるか否かが両者の違いと言えます。
侮辱罪の厳罰化
名誉毀損罪の法定刑は3年以下の懲役・禁錮、または50万円以下の罰金となっております。これに対し侮辱罪は従来拘留または科料となっておりました。拘留とは、1日以上30日未満の刑事施設における身柄拘束を言います(16条)。科料とは、1000円以上1万円未満の金銭納付命令を言います(17条)。このように侮辱罪は名誉毀損と比較しても法定刑が軽すぎるとの声がありました。そこで2022年6月の刑法改正で侮辱罪の法定刑が、1年以下の懲役・禁錮、もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料となりました。最大で1年の懲役と大幅な厳罰化がなされております。なおこの改正は2022年7月7日をもって施行されており、現在はすでに加重後の法定刑となります。
発信者情報開示
インターネット上で名誉毀損や侮辱的な書き込み、誹謗中傷を受けた際、その投稿者の情報が得られなければ法的措置をとることもできません。そこでプロバイダ責任制限法では一定の要件のもと、プロバイダに発信者の情報開示を求めることができるようになっております。その要件としては、(1)自己の権利が侵害された者、(2)権利侵害の明白性、(3)正当理由とされます(5条)。権利侵害がなされたとする者は自然人にかぎらず会社などの法人等も含まれます。権利侵害が明白な場合とは、違法性を阻却する事由の存在をうかがわせる事情が無い場合を言うとされます。そして正当理由とは、誹謗中傷的投稿の削除要請や損害賠償、刑事告発といった場合が典型例です。私的に制裁したり報復するといった理由では認められません。請求相手はプロバイダやサーバー管理者、掲示板管理者などです。この請求は裁判上でも任意でも可能とされます。
コメント
本件でヤフーニュースのコメント欄に投稿されたのが「人を踏み台にして上がっていった」というものです。これには具体的な事実が摘示されているとは言えないことから名誉毀損ではなく侮辱的な内容となっております。名古屋地裁は約93万円の賠償を投稿者に命じました。一般に名誉毀損などの誹謗中傷行為での損害賠償の相場は個人で10~50万円、企業などで50~100万円とされております。また昨今のネット上での誹謗中傷とそれによる自殺などが社会問題化しており、侮辱罪も厳罰化されました。今後も対策が強化されていくことが予想されます。自社が被害にあった場合、どのような手段を講じることができるのか、予め対策を用意しておくことが重要と言えるでしょう。
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