公取委、取引妨害(独禁法)疑いで婚活サービス大手IBJに立入検査
2023/03/27   コンプライアンス, 独禁法対応, 独占禁止法

はじめに

 婚活サービス大手「IBJ」(新宿区)が競合他社の取引を不当に妨害した疑いがあるとして、公取委が立入検査を実施していたことがわかりました。他に加盟している相談所に会員を紹介しなかったとのことです。今回は独禁法が規制する取引妨害について見ていきます。

 

事案の概要

 報道などによりますと、婚活サービス「ZWEI」や「サンマリエ」などを展開するIBJはネットワークサービス「日本結婚相談所連盟」も運営しているとされます。同社は2016年頃から他の連盟にも加盟している相談所には会員を紹介しないようにして取引の妨害を行った疑いが持たれているとのことです。なおIBJのホームページでは、日本結婚相談所連盟は全国の結婚相談所約3700社が加盟し、会員数は約8万人にのぼり日本最大級をうたっているとされます。公取委は自社ネットワークに囲い込んで利益を得ようとしていたとみて立入検査に踏み切りました。同社は立入検査を真摯に受け止め、全面的に協力していくとしております。

 

取引妨害とは

 独禁法2条9項6号に基づき公取委が指定する一般指定の14項によりますと、自己または自己が株主もしくは役員である会社と国内において競争関係にある他の事業者とその取引の相手方との取引について、契約の成立の阻止、契約の不履行の誘引その他のいかなる方法をもってするかを問わず、その取引を不当に妨害することが禁止されております。ライバル会社の取引先に圧力をかけたり、悪い噂を流すなどして取引を妨害するといった行為が該当します。これに違反した場合、公取委により当該行為の差止、契約条項の削除その他、当該行為を排除するために必要な措置を命ずる、排除措置命令が出される可能性があります(20条)。なお現段階では課徴金納付命令の対象とはなっておりません。

 

取引妨害の行為態様

 取引妨害となる行為は、契約の阻止、契約不履行の誘引など多種多様な行為が含まれると言われております。具体的な行為態様について見ていきます。(1)まず競争者の取引先に対する脅迫、威圧、競争者自体または競争者の商品・役務についての誹謗中傷、競争者の取引先に対して、競争者が知財等の権利侵害をしているなどの告知、取引に対する物理的妨害などが挙げられます。これらは最も反倫理的な手段と言えます。(2)次に競争者の顧客に対して代金相当額の割引と取引先を自己に乗り換えさせるといった行為です。このような競争相手の顧客を奪い行為は、場合によっては違法となります。(3)そして競争者と取引がある取引先に対して納期の遅延や供給拒絶、従業員の引き抜きといった行為が挙げられます。これらは行為それ自体は直ちに独禁法条問題となるわけではありませんが、その目的や態様により違法となると言われており、実際の事例でもエレベーター保守業者が他の独立系保守業者と契約しているエレベーター所有者にだけ部品の納期を遅延させた例があります(大阪高裁平成5年7月30日)。

 

公正競争阻害性

 本来競争事業者の取引先や顧客を取り合うといった行為は、正常な競争の過程で常に起こりうることであり、公正競争政策上問題ない行為と違法な行為とを区別することは容易ではないと言われております。そのため取引妨害における不当性、すなわち公正競争阻害性については、その行為自体の有する目的・効果から競争が歪められる場合とされております。具体的には、(1)自由競争、(2)競争手段の公正さの側面から検討するとされます。実際の事例として、すでに競合他社の顧客が予約契約を締結していたにもかかわらず、払い込んだ掛け金相当額の値引きをして自社と契約させた件では競争手段の不公正さから公正競争層が異性が認められました。そして上記エレベーターの事例では自由競争の減殺が問題となった事例と言えます。

 

コメント

 本件でIBJは自社が運営するネットワークサービスとは別に、他社のネットワークサービスにも加盟している結婚相談所に対しては会員を紹介しなかったとされます。このような行為には自由競争を阻害する効果が認められる可能性があると言えます。以上のように独禁法では競合他社の取引先や顧客に対し、取引の妨げとなる行為を行うと取引妨害として不公正な取引方法に該当することがあります。上記のように対象となる行為はかなり範囲が広く、本来であれば問題とならない正常な競争の範囲のものも多いと言えます。そのためその目的や意図、行為態様の悪質性などが問題となります。自社のライバル会社に対し妨害行為が行われていないか、またライバル会社と取引している自社の取引先を排除していないかを今一度確認しておくことが重要と言えるでしょう。

 

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