労基署が「特定社員へのフレックスタイム制不適用」による労災を認定
2023/03/20   労務法務, 労働法全般

はじめに

 印刷大手「凸版印刷」の40代女性社員が、フレックスタイム制での勤務が認められなかったことなどにより精神障害を発症していたとして、中央労働基準監督署から労災認定を受けていたことがわかりました。会社の対応が差別や不利益取扱に当たるとのことです。今回はフレックスタイム制度について見ていきます。

 

事案の概要

 報道などによりますと、女性は2011年に凸版印刷に入社し、人材育成業務を担当してきたとされます。女性は2020年5月の緊急事態宣言明けに育児のため有給休暇を取得し、8月に復職したとのことです。11月にフレックスタイム制度に勤務形態を変えたいと希望したものの、残業申請を適切に行っていなかったなどの理由で適用してもらえず、2021年2月に抵抗障害を発症したとされます。労基署は2020年8~9月に残業が月45時間以上となっていたこと、フレックスタイム制度への移行が認められなかったことなどが原因で心理的不可を受けたとして労災認定をしました。また未申請であった25時間分の残業代が未払いとなっている点についても労基法違反として是正勧告を出しています。

 

フレックスタイム制度とは

 フレックスタイム制とは、一定の期間についてあらかじめ定めた総労働時間の範囲内で、労働者が始業・終業時刻、労働時間を自ら決めることができる制度を言います。たとえば午前6時~10時、午後3時~7時までをフレックスタイムとし、その時間内は始業と終業を従業員の自主的決定に委ね、午前10時~午後3時をコアタイムとして必ず働かなければならない時間として定めるといった例をあげることができます。これにより子供の送り迎えを夫婦で分担したり、満員電車の通勤ラッシュを避けて快適に通勤し、始業までの披露を抑えるといったメリットが考えられます。このようにフレックスタイム制は社内で労働時間を効率的に配分することが可能となり、労働生産性の向上や従業員のライフワークバランスの調和を図ることができ、労使共にメリットがあると言われています。

 

フレックスタイム制の導入

 フレックスタイム制を導入するには、就業規則等に規定を置き、労使協定で所定の事項を定めることが必要です。まず就業規則に労基法の規定にかかわらずフレックスタイム制を適用する旨、精算期間、総労働時間、フレキシブルタイム、コアタイムなどを定め、フレキシブルタイムにおいては従業員に始業・終業の判断を委ねる旨も定めます。そしてさらに労使協定で、(1)対象となる労働者の範囲、(2)精算期間、(3)精算期間における総労働時間、(4)標準となる1日の労働時間、(5)コアタイム、(6)フレキシブルタイムを定める必要があります。対象となる労働者の範囲は各人ごと、課ごと、グループごとに定めることも可能です。たとえば「営業部職員」や個別に「Aさん、Bさん、Cさん…」といった定めも可能ですが、労使で十分に話し合い、対象の範囲を明確にしておく必要があります。また精算期間は以前は上限が1ヶ月でしたが、現在は3ヶ月となっております。1ヶ月と定めていた場合は1月の所定労働時間を超えた分は割増賃金が必要となりますが、3ヶ月の場合、1月での超えた分を他の月の所定労働時間に満たない部分に充当するといったことも可能です。

 

導入にあたっての注意点

 上で述べたように精算期間は現在1ヶ月を超えることも可能となっていますが、1ヶ月を超えるフレックスタイム制を導入するには就業規則への定め、労使協定に加え、労使協定の労基署への届出も必要となっており、これに違反した場合には30万円以下の罰金が科されることがあります。また精算期間が1ヶ月を超える場合でも、総労働時間が法定労働時間の枠を超えないことが必要で、精算期間全体の労働時間が、週平均40時間を超えないことに加え、1ヶ月ごとの労働時間が週平均50時間を超えないことも必要とされます。これらを超えた部分は時間外労働となります。そのため月によって繁閑差が大きい場合でも繁忙月に過度に偏った労働時間とすることはできないとされています。

 

コメント

 本件で凸版印刷の従業員の女性は育児休業からの復職後、業務が山積みになっていたにも関わらず自宅残業が禁止されており、やむなく自宅でサービス残業をしていたとされます。そのため虚偽の申告を行ったなどとして社内で懲戒処分となったとのことです。またこのことを理由にフレックスタイム制度の適用も拒否され精神障害を発症したとし労災認定がされました。労基署は仕事上の差別や不利益取扱があったと認めました。以上のようにフレックスタイム制の採用にあたっては就業規則での定めに加え、労使協定でその対象となる従業員の範囲も明確にしておく必要があります。そこで定められた対象者に該当するにも関わらず適用しない場合は差別や不利益取扱と判断される可能性があると言えます。またフレックスタイム制を導入していても時間外労働は発生し、その分は割増賃金が必要です。これらのメリット・デメリットを正確に把握して導入を検討していくことが重要と言えるでしょう。

 

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