スマホの1円販売に独禁法上問題のおそれ、携帯大手4社の監視強化へ
2023/03/02   コンプライアンス, 独禁法対応, 独占禁止法

はじめに


公正取引委員会は、2月24日、スマートフォン端末の極端な廉価販売(1円販売をはじめとする、消費者の負担額が1,000円以下となる販売)の実態を調べた報告書を発表し、携帯電話会社大手4社への監視を強化する方針を打ち出しました。

報告書によると、スマートフォン端末の販売代理店の多くが、1円をはじめとする極端な値下げ販売を実施し、採算を度外視した価格設定で販売。原価割れとなる場合には、携帯会社が通信料収入やオプションの収入などで、赤字部分を補う形になっていたということです。販売代理店が低価格で販売する背景には、携帯会社側からの「ノルマ」の存在があるとされています。

 

公取委が調査を実施した背景


以前から、スマートフォン市場では、通信契約の継続等を条件にスマートフォンの端末を1円で販売するなど、大幅な値引きを行うケースが多発していました。そこで、通信サービス市場・端末販売市場、それぞれにおける公正な競争を促進するべく、令和元年10月1日の改正電気通信事業法の施行以降、「通信料金」と「端末代金」の分離するための以下の措置が講じられて来ました。

・通信契約とセット購入時の端末代金の値引き等を上限2万円に制限
・端末の購入等(リース契約等を含む。)を条件とする通信料金の割引を禁止
・通信契約とセット購入時の端末代金の値引き等について、通信契約の継続を条件とするものは一律禁止

しかし、端末のみを購入するケースや、通信契約と端末のセット購入を同条件で行う端末の値引きについては、これらの規制の対象外となっています。そのため、2万円の値引き上限金額がないことなどから、現在も極端な価格設定での販売が続いている状況です。

こうしたスマートフォン端末の廉価販売が、独占禁止法が禁じる「不当廉売」にあたるおそれがあるとして、今回、公正取引委員会は調査に踏み切りました。

 

不当廉売とは


不当廉売については、独占禁止法第2条第9項第3号にて、「正当な理由がないのに、商品又は役務をその供給に要する費用を著しく下回る対価で継続して供給することであって、他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあるもの」と規定されています。

スマートフォン端末に限らず、“出血サービス”をうたい、驚くほど低価格で販売される商品やサービスは存在します。もっとも、全てが不当廉売とみなされ、独占禁止法違反で摘発を受けるということではありません。

ではどのような場合、不当廉売に該当するのでしょうか。
(1)廉売の態様、(2)競争への影響、(3)正当な理由の3つのポイントで判断されるといわれています。

(1)廉売の態様
第一に「不当に低い対価」での販売が当てはまります。ここでいう「不当に低い対価」というのは、供給に要する費用を著しく下回る対価と考えられていて(昭和五七年公正取引委員会告示第一五号)、実務上、仕入価格を下回るかどうかを一つの基準としています。

一方で、不当に低い対価での販売であっても、極めて短期間、または単発的な場合は、他の事業者との競争への影響が少ないと考えられています。そのため、不当に低い対価での販売を「継続して(相当期間にわたり繰り返し)」行っているかも一つの基準となります。

(2)競争への影響
廉売により、「他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあるか否か」も重要な基準です。具体的には、
・行為者の事業の規模及び態様
・廉売商品の数量
・廉売期間
・広告宣伝の状況
・商品の特性

等を総合的に考慮して、個別に判断されます。

(3)正当な理由
(1)と(2)の要件を満たす場合でも、正当な理由があれば、不当廉売と認定されない可能性があります。
例えば、スーパーマーケットで販売されるお刺身や肉といった、生鮮食品などの品質がすぐに変わってしまう恐れがある商品や、クリスマスやバレンタイン関連の商品をイベント後に見切り販売をする必要がある場合は、仕入価格を割るような低い価格を設定しても不当とはいえないということです。また、傷物、半端物等、瑕疵のある商品を相応に低い価格で販売するケースも不当とはいえないとされています。

なお、不当廉売の疑いがある場合には、公正取引委員会が審査を行い、認められた場合は排除措置命令が出されます。該当商品の取引が行えなくなるほか、排除措置命令に違反した場合は、2年以下の懲役または3億円以下(違反者には300万円以下)の罰金が科されることになります。

 

スマートフォン端末の廉価販売の問題点


今回の調査で、携帯大手4社それぞれにおいて、スマートフォンの販売に係る収支が赤字となっている機種が相当数あることがわかっています。そして、販売代理店が被るその赤字分については、携帯会社側が、通信料収入や他の機種販売の収入、オプションサービス(端末補償サービス等)の収入などで補填しているとのことです。

こうした販売方法は、不当に低い対価での販売に当たるおそれがあると公正取引委員会は指摘しています。
また、このような販売方法により、販売代理店と競争関係にある事業者(通信契約を伴わずスマートフォン端末の販売のみを専ら行う事業者)の事業活動を困難にさせるおそれがある場合には、不当廉売として、携帯会社・販売代理店双方において、独占禁止法上問題となる可能性があるとしています。

 

コメント


販売代理店が極端な廉価販売を行った理由として、「携帯会社からの統一的な施策としての実施指示」や「販売代理店の評価ランクに応じて定められる評価指標の目標値達成のため」といった回答が数多くあったといいます。さらには、「携帯会社の営業担当者等からの働きかけがあった」とする回答も相当数あったそうです。

公正取引委員会はこの点に着目し、不当廉売のみならず、携帯会社の販売代理店に対する「優越的地位の濫用(独占禁止法第2条第9項第5号)」にあたるおそれがあると指摘しています。

ビジネス上、苛烈な競争が生じている領域では、消費者ニーズを満たすため、各社あの手この手で販売戦略を練っています。しかし、現場で免罪符のように使われる「消費者ファースト」の考えは、ときに、独占禁止法をはじめとする各種法令違反に繋がるおそれがあります。法務として、しっかりと手綱を握りたいところです。

 

【関連リンク】
公取委 携帯電話端末の廉価販売に関する緊急実態調査 
 

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