公取委、スタートアップ出資をめぐる取引に関する調査結果を公表
2023/01/05 契約法務, 商事法務, 戦略法務, 独禁法対応, 上場準備, 独占禁止法, 会社法, IT

はじめに
公正取引委員会は2022年12月23日、スタートアップと出資者の取引慣行について報告書をまとめました。出資側が対価を払わず無償で作業することを要請したり、秘密保持契約(NDA)を結ばずに営業秘密の開示を求めたり、出資に関してもスタートアップの企業に取って割に合わない内容を要求する実態があったということです。
調査報告書での内容
スタートアップ企業が連携企業や出資者から要請のあった事例を抜粋して見ていきます。
・報酬の減額や支払遅延
・NDAを締結しないままの営業秘密の開示の要請を受けた
・スタートアップの顧客情報の提供の要請
・共同研究の大部分がスタートアップによって行われたにもかかわらず、共同研究の成果に基づく知的財産権を連携事業者のみ又は双方に帰属させる契約の締結の要請
・片務的なNDAや契約期間が短く自動更新しないNDAの締結の要請
・PoCの成果に対する報酬の未払やPoC実施後のやり直しに対する報酬の未払
※調査は未上場のスタートアップと、スタートアップに出資や事業連携している企業が対象で、計約5800社から回答を得たもの
例えば、報酬の遅延に関しての具体的な事例としては、連携事業者とスタートアップとの間で1年ごとに契約更新する共同研究を進めていたところ、連携事業者の事情で直近の契約更新が数か月遅れたことにより、契約更新時にスタートアップに支払うこととなっていた当該年度分の報酬の支払いを遅らせた事例があったそうです。
また、NDAを締結せずに秘密情報開示させた事例として、スタートアップが投資家に自らの事業計画をプレゼンするイベントで興味を持ったスタートアップに対し、ある事業者が後日、個別のミーティングを依頼。当該ミーティングにおいて、NDAを締結しないまま、スタートアップ側の経営見通しやビジネスモデルの重要な情報の開示を要請したというものがあったといいます。
出資契約書について
調査報告書では経営株主等の個人に対する買取請求が可能な株式の買取請求権について言及する部分もありました。
個人への買取請求が可能な株式の買取請求権について、出資者が出資を検討しているスタートアップに提示する多くの投資契約書案において、経営株主等の個人に対する買取請求が可能な株式の買取請求権が含まれていた事例もあったということです。
また、出資者とスタートアップの交渉の結果、請求対象から経営株主等の個人が除かれた事例や請求対象の個人を限定した事例もみられましたが、株式の買取請求権やその請求対象に個人が含まれることの意味をスタートアップに十分説明したとはいえない事例もありました。
金銭的支援などを目的として、株式投資を行う際などに交わされるのが「出資契約書」。ベンチャー・スタートアップ企業への投資には、投資家側から契約締結を提示することが一般的ですが、出資契約は法律上で義務ではないため、特に個人投資家が株式投資を行う際に契約書を用意しないケースもあります。
締結の際、お互いの認識をしっかりすり合わせることが大切ですが、最低限、以下のポイントを押さえると良いとされています。
• 株式の種類(普通株式・優先株式・・・)
• 出資に対して発行する株式の数
• 1株あたりの発行価格
• 実際に出資する額の合計(払込金額)
• 払込期日(出資者が資金を支払う日)
この他にも、出資資金の使途制限についての記載や、「出資契約」に違反した場合などのために株式買取請求権について明記し、出資者が企業に対して株式の買取を請求できるよう定めることもあります。
支援する側、支援される側の双方にとって良い機会とするために、ツボを押さえた契約書の締結が求められます。
【参考リンク】
投資契約書・出資契約書によくある落とし穴とは?安易な雛形利用は危険!(弁護士法人 咲くやこの花法律事務所)
コメント
スタートアップ出資と聞くと、かつては、スタートアップ企業とベンチャーキャピタルの間で行われるイメージがありましたが、近年、大企業がスタートアップ企業へ投資を行う事例も増えて来ました。その背景として、スタートアップ支援を通じて事業シナジーを創出(新規事業の育成や協業による中核事業の強化等)したい大企業側の思惑があります。
そのため、ベンチャー企業のみならず、大企業においても、法務部門が出資契約に携わる機会が増加しています。
一方で、人気スタートアップ企業の場合、出資を希望する企業が多く、契約の駆け引きを誤ると、スタートアップ企業側から出資を断られるおそれもあります。また、行き過ぎた契約条件での契約締結は独占禁止法違反と認定されるリスクもあります。
投資の確実な回収、独占禁止法の遵守、交渉決裂の回避と多方面を見据えながら、慎重に契約条件を詰める必要がありそうです。
【関連リンク】
スタートアップをめぐる取引に関する調査結果について_令和4年12月23日(公正取引委員会)
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登島和弘 氏(新企業法務倶楽部 代表取締役…企業法務歴33年)
潮崎明憲 氏(株式会社パソナ 法務専門キャリアアドバイザー)
- [アーカイブ]”法務キャリア”の明暗を分ける!5年後に向けて必要なスキル・マインド・経験
- 終了
- 視聴時間1時間27分